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映画ジャンル別ガイド 2025/7/20
Written by 鳥羽才一

脚本術で読む映画『ターミネーター2』ストーリー・あらすじをラストまでネタバレ解説

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『ターミネーター2』のストーリーを、脚本術「Save the Cat!」の15ビート構成で読み解く! 物語はどう動き、なぜ心を掴むのか──構造を知れば、あらすじは一本の読みものに。脚本というレンズで映画の設計図を覗いてみましょう。

Contents

映画『ターミネーター2』とは?

1991年に公開された『ターミネーター2(Terminator 2: Judgment Day)』は、ジェームズ・キャメロン監督が手がけたSFアクション映画。1984年の前作『ターミネーター』の続編でありながら、ストーリー・演出・ビジュアルのすべてにおいて前作を凌駕する完成度を誇り、以降のSF映画に決定的な影響を与えた名作です。

物語の舞台は、未来に起こるAIと人類の戦争を背景に、少年ジョン・コナーと、彼を守るため未来から送り込まれた新型のターミネーター(T-800)、そして彼を抹殺しようとする最新鋭の液体金属型ターミネーター(T-1000)との激しい攻防を描いています。

前作で恐怖の存在だったT-800が、今作では守護者として再登場するエモさ……! 意外性抜群のアプローチも話題を呼びました。

公開当時、CGによる液体金属の表現はまさに革新的で「VFXの金字塔」として語り継がれています。アクション映画でありながら母と子、そして機械との疑似的な家族関係を通じて人間とは何かを問いかける深いテーマ性も魅力の一つ。

その後もシリーズは続きましたが、いまもなお『2』こそがシリーズ最高傑作と称されることが多く、映画ファンや脚本家からの評価も非常に高い作品です。

シリーズ一覧(邦題/原題)

  1. ターミネーター / The Terminator(1984)
  2. ターミネーター2 / Terminator 2: Judgment Day(1991)
  3. ターミネーター3 / Terminator 3: Rise of the Machines(2003)
  4. ターミネーター4 / Terminator Salvation(2009)
  5. ターミネーター:新起動/ジェニシス / Terminator Genisys(2015)
  6. ターミネーター:ニュー・フェイト / Terminator: Dark Fate(2019)

スナイダー式ジャンル分けだと『スーパーヒーロー』

『ターミネーター2』は「スナイダー式ジャンル」のなかでも『スーパーヒーロー』に分類される作品です。

明確な使命を帯びたヒーロー(T-800)と、その守るべき存在(ジョン)を中心に物語が展開される構成は、まさにヒーローものの王道。

さらに敵となるT-1000はほぼ無敵の能力を持つ最強の悪役であり、限界ギリギリの闘いを通じて人間らしさを学んでいくターミネーターの成長が感動を呼びます。

単なるアクション映画ではなく、人類の未来を背負う戦いというスケール感を持ちつつ、母子の絆や自己犠牲といった普遍的なテーマも描かれており「圧倒的スケールで描かれる人間ドラマ」という、スーパーヒーロー作品の真髄が詰まった一本です。

『ターミネーター』第1作を知らなくても大丈夫? 入れておきたい前提知識

『ターミネーター2』は、前作『ターミネーター』(1984)の直接的な続編にあたります。とはいえ2作目だけでも充分に楽しめるよう設計されていますが、物語の背景やキャラクターの関係性をより深く理解するためには、以下のポイントだけは押さえておくと良いでしょう。

未来ではAIが人類と戦争している

物語の根底にあるのは、「スカイネット」と呼ばれる人工知能が反乱を起こし、人類との間で大戦争を起こすという未来設定。機械軍は核戦争(審判の日)を引き起こし、生き残った人類を抹殺しようとしています。

人類のリーダー・ジョン・コナーを止めたい機械軍

スカイネットにとって最大の脅威は、人類抵抗軍のリーダーであるジョン・コナー。前作では彼がまだ誕生する前の1984年に、ジョンの母親であるサラ・コナーを抹殺すべく、未来からターミネーター(T-800)が送り込まれてきました。

サラ・コナーは“狙われた未来の母親”だった

1984年当時、サラ・コナーはごく普通の若い女性でした。そこに送り込まれたターミネーターに命を狙われ、同時に未来から来た兵士カイル・リースに助けられながら逃走。やがて彼との間にジョンを身ごもり、未来のリーダーの母となる運命を背負うことになります。

ちなみにジョン・コナーの父は、サラ・コナーを助けるためにやってきた未来人。そもそもの存在がタイムパラドクス的な特異点です。

T-800=シュワルツェネッガーは敵だった

『2』で守護者となるT-800(アーノルド・シュワルツェネッガー)は、実は1作目では敵として登場。執拗にサラを追い続ける恐怖の殺人マシンであり、彼の無表情かつ無慈悲な姿は観客に強烈な印象を残しました。

このように、『2』は前作を前提とした物語ではありますが、必要な情報は劇中でも補足されており、初見でもストーリーを理解することは可能です。ただし、この基本設定を知っておくと、T-800の立ち位置の変化やサラの変貌ぶりといった要素に感動できるはずです。

2の前に観れるならもちろん観たほうがいいです

オープニング・イメージ(Opening Image)

機械と人類が死闘を繰り広げる荒廃した世界。無数のドローンや巨大なタンク型ターミネーターが人類を圧倒し、核の炎で焼かれた街並みが静かに映し出されます。

ここで提示されるのは、人類がAI(スカイネット)に敗れかけた末のディストピアという現実。そしてこの戦争の鍵を握る少年、ジョン・コナーの名前。未来の人類を救う存在でありながら、現在ではまだ平凡な少年に過ぎないというギャップが鮮やかに刻まれます。

その後、ふたりのターミネーターが1990年代のアメリカに時空転送され、物語の「戦場」が現代へと移ることで、観客は一気に現実へと引き戻されます。

日常と非日常、未来と現在、英雄と少年──その全てを対比的に描きつつ、壮大なスケールの物語が始まる予兆を描いた見事すぎるオープニング……! 改めて観るとアツすぎます。

テーマの提示(Theme Stated)

物語のテーマは、サラ・コナーによるモノローグで明確に語られます。未来に備えて戦い続けてきた彼女は、冒頭でこう語ります。

「未来は石に刻まれてはいない」

これは単なる希望の言葉ではなく、この作品全体を貫く核心的な問いです。人は運命に抗えるのか? 未来を変えることはできるのか? というテーマがこの段階で観客に投げかけられるのです。

『ターミネーター』1作目では「抗いようのない未来」が支配していましたが、続編である本作では一転、選択や希望がキーワードとして浮上します。この違いがT-800という敵だった存在を守護者として再登場させる意義にもつながっています。

また、ジョンの存在そのものも「未来が変わる可能性」を象徴しています。母サラが彼に託したものは単なる生存ではなく、未来を作る意思と責任──それこそがこの映画の物語的エンジンです。

セットアップ(Set-Up)

舞台は1990年代初頭のロサンゼルス。ジョン・コナーは養父母のもとで問題児として育てられており、バイクで街を駆け回りながらATMをハッキングして遊ぶような少年として描かれます。彼にはまだ救世主としての片鱗は見られません。

一方、サラ・コナーは精神病院に収容されています。前作での出来事を真実として語ったがゆえに「妄想を抱く危険人物」とされ、鉄格子の中で筋トレと脱出計画に励む日々。彼女はジョンに未来を託したが、その距離と現実の隔たりが強調される描写が続きます。

ここで描かれるのは「崩れた家族」と「英雄の不在」。本来は繋がっているはずの母と息子は引き裂かれ、それぞれ社会から見放されたような状態にあります。

同時に二体のターミネーターが現代に転送されるプロセスも描かれます。無骨なT-800と、液体金属のボディを持つT-1000。どちらが味方でどちらが敵か分からない状態で、物語のピースが着実に配置されていきます。

このパートでは登場人物たちの現状、心の空白、そして来たるべき衝突に向けた「静かな始まり」が丁寧にセットアップされていきます。

きっかけ(Catalyst)

すべてが動き出すきっかけは二体のターミネーターがジョン・コナーを追跡・接触するシーンです。

T-800(シュワルツェネッガー)とT-1000(ロバート・パトリック)はそれぞれ違う方法でジョンに近付き、ショッピングモールの通路で初めて対峙。観客にはじめて「守る者」と「殺す者」の正体が明かされます。

このシークエンスは観客の認識を大きく揺るがす驚きとともに、物語の駆動エンジンが起動する瞬間です。前作の殺戮マシンだったT-800が、今作ではジョンを守る側に回るという構図の逆転。それにより彼の存在に対する信頼や絆が徐々に育まれていく余地が生まれます。

そしてT-1000の存在は、単なる続編の敵というレベルを超えた新世代の脅威として描かれます。どこまでも追ってくる執念、擬態・再生能力を備えたその姿は、単なるアクションを超えた止められない運命の象徴としても機能。

この出会いによって、ジョンは日常から非日常へと否応なく引きずり込まれ、物語は一気に加速していきます。

悩みのとき(Debate)

ジョンはT-800に守られる立場になったことで、突然「世界の命運を握る少年」としての現実と向き合わざるを得なくなります。戸惑いながらもT-800に命令することができる立場を利用して、まずは母サラの救出を決意します。

一方、精神病院に収容されたサラは脱走のタイミングを狙いながらも、自分の選択に確信が持てずにいます。彼女は息子との再会を望みながらも、未来を変えるために人を殺す覚悟すら抱いており、その正義感と狂気の境界線で揺れ動いています。

ここでは登場人物たちがそれぞれ「この戦いに加わるべきかどうか」「自分は何のために存在しているのか」という問いに向き合い始めます。特にジョンの中では、ただ守られる存在から、自ら行動する者へと変化していく芽が生まれ始めていきます。

T-800というキャラクター自身も命令されるままに行動する機械でありながら、ジョンとの関係性の中で「人間らしさとは何か」を学び始めるという種がこの段階で蒔かれていきます。

この「迷い」の時間はただのインターバルではなく、後半に向けて登場人物の感情と思想が深化していくための土台となる重要なフェーズです。

第一ターニング・ポイント(Break into Two)

ジョンとT-800は、精神病院に拘束されていたサラを救出し、三人で逃走します。この瞬間、物語は現実世界から反乱の準備という新たなフェーズへと突入。いわば「物語の第2幕」への扉が開かれるシーンです。

ここで重要なのは、ただサラを救うという物理的な行動だけでなく、ジョン、T-800、サラという奇妙な家族ユニットが成立するという点。前作では敵対していた存在が、今回は最も信頼できる味方になるというパラドックスが観客に強い興奮と期待を与えます。

またこの段階で、サラがT-800の存在に対して明確な拒絶を示す描写も入ります。彼女にとっては「家族を奪った殺戮兵器」であり、息子が平然と話す様子には混乱と怒りを隠せません。ここに登場人物間の緊張感と葛藤が生まれ、物語に厚みが加わります。

つまりこのビートは逃亡の開始と同時に、感情と関係性の再構築が始まるポイントでもあります。いわば「ただ逃げるだけ」だった物語が「どう生き延びるか」へと問いを変え始める、重要な分岐点というわけです。

サブプロット(B Story)

この物語におけるサブプロットは、ジョン・コナーとT-800の関係性に集約されています。初めて出会った時、ジョンにとってT-800は殺人マシンであり恐怖と警戒の対象でした。しかし次第に、T-800が自分を守るために動いていること、命令すれば絶対に従うことを知り、その存在を信頼するようになります。

この関係性は単なる少年とロボットのバディーモノではなく、深い親子関係のメタファーとして機能しています。ジョンにとっては「本当の父親になりうる存在」としてT-800が立ち上がり、またT-800自身“人間の価値や命の重みを学んでいきます。

特に印象的なのは、ジョンがT-800に「人を殺すな」と命令し、T-800が律義にそれを守ろうとするシーン。ここには単なる命令の履行ではなく、人間性への学習が見て取れます。無機質な機械が少年とのやりとりを通じて感情という現象の輪郭に触れていく──この過程が後の「自己犠牲」や「涙を理解する」というラストへの伏線にもなっています。

このBストーリーを通して、母サラの変化も浮かび上がります。かつては孤独に闘い続ける戦士であった彼女も、T-800が父性を帯びるようになる姿に心を揺さぶられ、徐々に母としての本質を取り戻していきます。

このように、アクションやSFの骨格を支えるのが、家族の再構築という静かなドラマ。だからこそ本作は、単なるロボットvsロボットの対決ではなく、人間らしさとは何かを問いかける壮大な物語へと昇華されているのです。

お楽しみ(Fun and Games)

このセクションでは、T-800とジョン・コナーが逃亡しながら交流を深め、またサラ・コナーが物語に再登場し、チームとして動き出す姿が描かれます。アクションとユーモア、そして感情の高まりがテンポよく交錯する見せ場です。

まず観客が楽しみにしているのは、T-800のアクションと、ジョンとのコンビネーション。バイクでの追跡劇やショットガンの華麗な扱い、T-1000からの逃走劇など、映画的快感が詰まったシーンが連続します。冷静沈着なT-800と、子供らしいジョンの無邪気さが生む掛け合いには、ハードな状況下にも関わらずどこか温かみがあります。

特に象徴的なのはジョンがT-800に「笑う練習」をさせたり「言葉遣い」を教える場面。T-800が無骨に繰り返す「アスタ・ラ・ビスタ、ベイビー」は、本作を代表する名ゼリフとなりました。この人間らしさを学んでいくプロセスそのものが、本作ならではのお楽しみ要素になっています。

また、このパートの中盤では、サラ・コナーが自力で脱走を図り、T-800とジョンによって救出されます。再会の場面では、母としてのサラの葛藤と、前作を知る観客への感慨が強く表現されます。無敵の戦士となった彼女の姿と、T-800との再会の緊張感は、ただの逃亡劇に留まらない“親子と機械の奇妙な家族ドラマ”としての色彩を加えていきます。

こうして一行は逃避行を続けながらも、次第に「未来を変えるための行動」へと目的をシフトさせていきます。サラの内面にはすでに「このままでは人類が滅びる」という恐怖が芽生え始めており、それが後の行動の動機へと繋がっていきます。

爆破、脱出、名ゼリフ、バディ感──このパートこそが『ターミネーター2』の“娯楽映画としての顔”を最も色濃く見せる時間帯です。

ミッドポイント(Midpoint)

ミッドポイントでは、登場人物たちの行動が一気に能動的なものへと変化し、物語が「逃げる側」から「戦う側」へとシフトしていきます。その象徴となるのがサラ・コナーの「未来を変えるために行動しなければならない」という決意です。

T-800、ジョンと合流し、一時の安息を得たサラはスカイネット開発の元凶となる男・マイルズ・ダイソンの存在を知ります。ダイソンは善良な研究者でありながら、結果的に人類滅亡の引き金を引いてしまうことになる人物。サラは「彼を止めれば未来を変えられる」と考え、単身でダイソンの命を奪おうとします。

ここで物語は明確に目的を持った戦いへと切り替わります。逃げるだけだった彼女が、自らの意思で未来を壊しにかかる。その強烈なアクションは、観客にも「この映画は単なる追跡劇では終わらない」という明確なメッセージとなって響きます。

そして同時にジョンの視点では、母の行動を見て「人間らしさ」と「感情」を重視する価値観がより強調されていきます。彼はT-800に命令して人を殺さないように言い聞かせ、それを守らせようとする──ここに「破壊ではなく共存」を目指すという、人類の未来の希望が現れ始めます。

このミッドポイントは、サラの変化とジョンの成長、そしてT-800の学習が同時に浮き彫りになる、非常に情報密度の高い場面です。そしてここから物語は一気に加速し、逃げるのではなく「運命に立ち向かう」段階へと入っていきます。

迫り来る悪い奴ら(Bad Guys Close In)

ここでいう悪い奴らとは、T-1000の執拗な追跡だけではありません。サラ・コナーの暴走も、また別の形の脅威として描かれます。彼女はダイソンを暗殺しようと自宅へ押し入り、恐怖に震える彼と家族を銃口で脅すのです。サラはかつての被害者ではなく、もはや未来を守るためなら犠牲もいとわない存在へと変貌してしまったように見えます。

これは正義の暴走が生む危うさを描く重要な場面でもあります。T-1000という冷徹な殺人マシンと同じように、未来のために感情を捨てたサラの姿もまた観客に「これでいいのか」と問いかけてくるのです。

同時にT-1000は依然として容赦なくジョンたちを追跡しており、警察官に偽装してダイソンの職場であるサイバーダイン社へも迫ってきます。彼の登場は常に突然で、しかも誰よりも早く、しつこく、そして……強い! 登場するたびに事態は急展開し、観客の緊張感はどんどん高まっていきます。

このパートでは外的な敵と内的な暴走という二重の圧力が同時に押し寄せ、サラたちに決断と責任を迫ります。そして、ジョンとT-800がサラを止めに現れることで、再び家族としての絆が表に浮かび上がる構成にもなっています。

すべてを失って(All Is Lost)

サラ・コナーたちは、サイバーダイン社に乗り込んで未来の引き金となる技術を物理的に破壊しようと行動します。ダイソンの協力のもと、彼の研究データを完全に消し去ることに成功──それは同時に「サラたちの理想の未来を実現する唯一の希望」を自らの手で断ち切る瞬間でもあります。

このシーンの核となるのは、マイルズ・ダイソンの死です。自分の研究が世界を滅ぼすと知った彼は、自らの命を犠牲にしてビルごと研究設備を爆破しようとします。爆発装置のスイッチを手にしたまま、最期の瞬間まで息を切らしながら「もう長く持たない」と言う彼の姿は、観客に大きな喪失感をもたらします。

ダイソンの死は、サラたちにとっても観客にとっても大きな痛みであり、それと同時に「犠牲なしに未来は変えられない」ことを強く印象づけます。未来を守るために命を落とした彼の姿は、戦う意味と代償のリアルを浮き彫りにします。

T-800もこの時点で明確に「自分が残りの脅威」であることを認識し始めます。チップとアームを破壊しただけでは不十分であり、自身の存在こそがスカイネット誕生の火種となってしまうのです。

全てを壊したはずなのに、安堵ではなく虚しさと疲弊が残る──この「敗北にも似た達成感」こそが、本作の「すべてを失って」の真髄です。

心の暗闇(Dark Night of the Soul)

全てを破壊した後の静寂。爆発の余韻が収まり、夜の闇が訪れるなか、サラ、ジョン、そしてT-800は倉庫の一角に身を寄せています。ここには勝利の余韻や達成感は一切ありません。ただ「これでよかったのか?」という問いと、自ら選んだ結末に向き合う沈黙だけが漂っています。

サラ・コナーは自らを振り返ります。かつて息子を守るために誰よりも戦い、冷徹に未来を変えようとしてきた自分。しかし今、彼女の眼前には息子と機械が互いに心を通わせている姿がある。それは皮肉にも、人間と機械の間に築かれた信頼と理解の証──そして自分が最も否定してきた未来の可能性でした。

一方T-800もまた変化を見せます。人間になりたいとは言わないまでも、ジョンとの関係性を通じて、学び、気づき、感じるという過程を経てきました。彼の言葉は少なくとも、かつての「ただの殺人マシン」ではなく、人間の感情に寄り添う存在へと近づいています。

「なぜ涙が流れるのか、自分にはわからない」というT-800の言葉は、この暗闇の中で最も美しく、そして哀しいラインです。未来は変えられるのか──という問いに対して、明確な答えはまだ出ていません。しかし彼らは確かに何かを変えた。そしてその重みを、彼ら自身が一番深く感じているのです。

この「心の暗闇」は、単なる絶望ではありません。戦いのあとに訪れる静けさ、そしてそこに浮かび上がる人間らしさ。それは、決して機械では再現できない「魂の輪郭」を描き出していく時間なのです。

第二ターニング・ポイント(Break into Three)

運命は自分で切り開くもの──その確信と覚悟を胸に、サラたちは最終決戦の地へと向かいます。行き先は、T-800のCPUとT-1000が狙う「チップとアーム」が保管されたサイバーダイン社。つまりスカイネット誕生の引き金となるテクノロジーを完全にこの世から消し去るための行動です。

ここで物語は「戦うこと=守ること」から「戦うこと=未来を選ぶこと」へと明確にシフトします。サラは再び武器を手にしますが、それは誰かを殺すためではなく、これまで命がけで守ってきたジョンの未来、そして人類そのものを守るための決断です。

この決断にはT-800の存在も大きな意味を持ちます。彼はジョンを守るだけでなく、人類が自らの愚かさで滅びる未来を止めようとする協力者でもある──もはや殺戮兵器ではなく仲間として行動を共にするT-800の姿は、機械と人間の境界線を越えた象徴です。

サイバーダイン社への突入は、いわば運命との最終対決。その前夜、3人の間に生まれた沈黙と共感は、家族でも戦友でもない、かけがえのない関係性を刻みつけていきます。

いよいよ物語はクライマックスへ。後戻りはできず、やり直しも許されません。未来を変えるには今しかない──そんな緊迫感と希望を胸に、彼らは夜の闇を裂いて走り出すのです。

フィナーレ(Finale)

サラたちはサイバーダイン社に乗り込み、未来を破滅へ導く技術のすべてを破壊するという攻めの行動に出ます。ここはT-800とサラ、そしてジョンが、それぞれの立場と覚悟を持って力を合わせるシリーズ屈指の連携パートです。

襲い来るT-1000の猛攻。液体金属の冷酷さと執念深さは増すばかりで、エレベーター、トラック、溶鉱炉と、ステージを変えながらの追撃戦が繰り広げられます。アクションと感情のすべてが詰め込まれた怒涛の展開の中、サラは重傷を負いながらも息子を守ろうと最後まで戦い抜きます。

T-800とT-1000の最終決戦──物理的な強度では勝てないはずの戦いを、機転と連携、そして執念で切り抜け、ついにT-1000を溶鉱炉に沈めることに成功します。

しかし、未来を守るためには痕跡の抹消が必要でした。それこそT-800自身の存在。彼の頭脳にあるチップもまた、スカイネット誕生の可能性を秘めているのです。ジョンは涙ながらに止めようとしますが、T-800は「自分でしか自分を破壊できない」と語り、ゆっくりと溶鉱炉へ身を沈めていきます。

サムズアップ──言葉を超えた信頼と別れのジェスチャーを残して。

ファイナル・イメージ(Final Image)

物語はジョンとサラが夜道を走るシーンで幕を閉じます。破壊されたチップ、沈んだターミネーター、そしてもう一つの未来。全てを燃やし尽くした溶鉱炉の炎は、過去と未来を断ち切る再出発の灯火ともいえるでしょう。

ここでの語りはサラ・コナー自身によるもの。機械によって救われたことで、彼女は未来に希望を持つという感情を初めて手にします。機械に命を救われ、機械が人間らしさを見せ、そして人間が再び人間らしさを取り戻す──その逆転現象が、戦いの終わりを美しく締めくくっています。

このラストシーンでは、物語の冒頭にあった未来への絶望が、未来を選べるという希望へと転化されています。運命に抗うことはできないと考えていたサラが希望を抱き始めた──この変化こそが、本作がアクション映画の枠を超えて語り継がれる理由の一つです。

真夜中の道を走りながら、サラはこう締めくくります。

彼らが私に教えてくれた。 未来は白紙なのだと。 そして、希望を語ることは間違いではないのだと。

恐怖に支配された未来を誰かが変える。その誰かになれる可能性は観客である私たちにも託されている──そんな強く静かなメッセージが、この最後のイメージには込められているのです。

『ターミネーター2』主な制作陣・キャスト

ジェームズ・キャメロン【監督・脚本】

SFアクションの巨匠にして、本作の原点である『ターミネーター』の生みの親。視覚効果と物語構造の両面で、シリーズを決定的な名作に押し上げた。

代表作

  • アバター
  • タイタニック
  • ターミネーター
  • エイリアン2
  • アビス

アーノルド・シュワルツェネッガー【T-800役】

元ボディビルダーにして世界的アクションスター。本作では前作と対照的に守る側として登場し、彼の代表作となった。

代表作

  • ターミネーターシリーズ
  • プレデター
  • トータル・リコール
  • ラスト・アクション・ヒーロー
  • バットマン&ロビン(Mr.フリーズ役)

リンダ・ハミルトン【サラ・コナー役】

前作に続き登場したジョンの母。鍛え抜かれた肉体と強靱な精神力で、映画史に残る女性ヒーロー像を確立した。

代表作

  • ターミネーターシリーズ
  • ビューティー&ビースト(TV)
  • ダンテズ・ピーク

エドワード・ファーロング【ジョン・コナー役】

本作で俳優デビュー。思春期の反抗心と未来のリーダーという二面性を持つキャラクターを好演した。

代表作

  • ターミネーター2
  • アメリカン・ヒストリーX
  • デトロイト・ロック・シティ

ロバート・パトリック【T-1000役】

液体金属型ターミネーターとして登場し、冷酷で表情を抑えた演技が高く評価された。

代表作

  • ターミネーター2
  • X-ファイル(ジョン・ドゲット捜査官)
  • ウェインズ・ワールド
  • ザ・ユニット 米軍極秘部隊

ウィリアム・ウィッシャー【共同脚本】

キャメロン監督と共同で脚本を担当。前作から引き続き物語構築を支え、シリーズの進化に貢献。

代表作

  • ターミネーター
  • ターミネーター2
  • ジャッジ・ドレッド

機械が父になるとき、人間は何を受け継ぐのか?

家族を描くために、世界が壊れる

『ターミネーター2』は機械vs機械のSFアクションにとどまらず、家族の物語としての強度をも併せ持っています。守るべき存在としての母・サラ。未来を担う子供・ジョン。そして、感情を持たぬはずのT-800が命の重さを理解していくプロセス。

つまりこの物語は、機械が父としての役割を担い、家族の形が再構築されていく話でもあります。

感情を知らぬ者が、涙を知る

クライマックスでT-800が自ら炉の中へと沈んでいくシーンは、単なる自己犠牲ではなく、感情を学んだ機械の成長譚の締めくくりでもあります。ジョンが涙を流すのと同じだけの、いやそれ以上の意味が、彼の学習には込められているのです。

冷酷な殺戮マシーンだったはずの存在が命を守ることの尊さに目覚め、自らを処分する──この過程そのものが、人間らしさへの渇望の物語でもあります。

未来は運命ではなく選択するもの

1作目の「逃げる物語」とは対照的に、本作は「立ち向かう物語」として描かれます。未来は変えられないものではなく、選び取るものであるというサラの台詞にも表れているように、そこには強い意志が刻まれています。

運命に抗う勇気。機械に学ぶ愛情。命をつなぐ意思── ターミネーター2はSFアクションの皮を被った、非常にエモーショナルな家族と成長の物語なのです。