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映画ジャンル別ガイド 2025/5/15
Written by 鳥羽才一

脚本術で読む映画『ミッション:インポッシブル』ストーリー・あらすじをラストまでネタバレ解説

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『ミッション:インポッシブル』のストーリーを、脚本術「Save the Cat!」の15ビート構成で読み解く! 物語はどう動き、なぜ心を掴むのか──構造を知れば、あらすじは一本の“読みもの”に。脚本というレンズで映画の設計図を覗いてみましょう。

Contents

映画『ミッション:インポッシブル』とは?

1996年に公開された映画『ミッション:インポッシブル』は、かつてのテレビシリーズ『スパイ大作戦』を原案としたスパイ・アクション映画。監督はブライアン・デ・パルマ、主演は製作も兼ねたトム・クルーズ。

高度な潜入ミッション、二転三転する裏切り、そして誰が味方か分からない心理戦──これらを軸に展開されるスリリングな物語は、公開と同時に大ヒットを記録。現在に続く人気シリーズの第一作となりました。

物語はアメリカ政府の極秘組織IMF(Impossible Mission Force)の工作員であるイーサン・ハントが、任務の最中にチームを失い、自身がスパイ容疑をかけられるところから始まります。

逃亡者となったイーサンは自らの潔白を証明するため裏切り者を突き止め、危険な潜入作戦へと挑むことになります。

最大の魅力は、ただの派手なアクションではなく、緻密なプロットと心理戦にあります。中盤のCIA本部からの極秘データ回収シーン、列車上での肉弾戦、そして仲間の裏切りといった一連の展開は、常に次の展開を予測させない緊張感を観客に与え続けます。

以降は『M:I』シリーズとしてフランチャイズ化され、スタントのリアル志向とドラマの深化によって常に進化を続けています。最新作『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング』に至るまで、全世界で愛されるスパイ映画の金字塔へと成長しました。

それでもすべての始まりは、この一作。イーサン・ハントという男の孤独な戦いと、信頼と裏切りが交錯するスパイ劇の原点がここにあります。

シリーズ一覧(邦題/原題)

  1. ミッション:インポッシブル / Mission: Impossible(1996)
  2. ミッション:インポッシブル2 / Mission: Impossible II(2000)
  3. ミッション:インポッシブル3 / Mission: Impossible III(2006)
  4. ゴースト・プロトコル / Ghost Protocol(2011)
  5. ローグ・ネイション / Rogue Nation(2015)
  6. フォールアウト / Fallout(2018)
  7. デッド・レコニング / Dead Reckoning(2023)
  8. ファイナル・レコニング / The Final Reckoning(2025年公開予定)

スナイダー式ジャンル分けだと『組織の中で』

映画『ミッション:インポッシブル』は、ブレイク・スナイダーの脚本分類で言うところの「組織の中で(Institutionalized)」に属する物語。このジャンルは「組織に属する主人公が、その内部で信念や忠誠を試される構造」を持つのが特徴です。

本作ではIMFという極秘諜報組織に所属するイーサン・ハントが、任務中に仲間を失い、さらに組織からスパイ容疑をかけられるという危機に直面します。つまり、主人公が信じてきた組織そのものが、自分に牙をむく構図が物語の核にあります。

スナイダーの理論では「Institutionalized」は三角構造(主人公・組織・第三の選択肢)で捉えることができます。

  • 主人公:イーサン・ハント(忠誠心と正義感を持つ諜報員)
  • 組織:IMF(腐敗や裏切りの可能性を内包する巨大機構)
  • 第三の選択:組織の理念だけを守り、自らの正義で行動する道

イーサンはIMFの正式な任務から外されながらも、裏切り者を突き止めようと動きます。その行動は「組織の命令に従う」のでも「完全に反抗する」のでもなく「信じるべき価値だけを選び取る」という中間的で能動的な立場を示しています。

シリーズ全体としてもイーサンはしばしば組織と摩擦を起こしながらも、自らの信念で任務を貫き、チームを守り抜いていく立場を選び続けます。

そうした構造からも、『ミッション:インポッシブル』はまさに「組織の中で」の変化形であり、ジャンル分類の教科書のような一作だと言えるでしょう。

Save the Cat!で読む『ミッション:インポッシブル』のストーリー構成

オープニング・イメージ(Opening Image)、テーマの提示(Theme Stated)

物語の冒頭、画面に映し出されるのは監視カメラ越しの室内映像。ソファーに横たわる女性、涙を流す男──実はこれこそがIMFによる偽装尋問ミッションでした。

死んだふりをしているのはクレア・フェルプス。男から情報を聞き出すため、薬で意識を落として時間を稼いでいる状態です。尋問するのは我らがイーサン・ハントが偽装した老人。彼は男にスパイの名前を吐かせようと迫りますが、相手は怯えてなかなか情報を口にしません。

「クレアが限界だ」と焦るのは、隣の監視室にいるジャック・ハーモン。チーム全体がタイムリミットに追われながらも、寸秒を争う形で任務を遂行しています。

やがて男は「ミンスクのスパイはディミトリ・ミエディエフ」と告白。ジャックがその名を入力すると、イーサンは眠らせた男をその場で処理し、チームの撤収を命じます。マスクを外して変装を解くと、薬で眠らされていたクレアにも目覚めの処置が施されます。

この一連のミッションは、ただの派手なスパイアクションではありません。ここで示されるのは「真実は常に偽装の中にある」という世界観。そしてチームでの信頼と役割分担によってしか成し得ない複雑な任務の成立──それが本作の根本にあるテーマです。

観客はまだ何が起こっているのかを完全には把握できないまま、すでに「偽りと演出の世界」に引き込まれているのです。

セットアップ(Set-Up)

ベテラン工作員ジム・フェルプスは、飛行機内で機内映画に偽装されたIMFの指令メッセージを受け取ります。

このテープは自動的に消滅する──でお馴染みの演出と共に提示された今回のミッションは、アメリカ大使館員ゴリツィンが、東欧で活動するCIA工作員の実名リスト「NOCリスト」を盗み出そうとしているというもの。その行動を証拠ごと押さえ、一味を一網打尽にすることが任務です。

フェルプスはIMFの精鋭チームと共にプラハへ入り、現地で作戦のブリーフィングを実施。実質的な現場指揮を担うのはイーサン・ハントで、チームにはハッカーのジャック、監視役のハンナ、変装と心理操作に長けたクレアなど、信頼できるメンバーが揃っています。

パーティー当夜、チームは大使館内に潜入し、それぞれの役割を果たしながらゴリツィンの動きを追います。クレアが会場の要所に潜入し、イーサンは映像記録係として偽装しながら監視を担当。完璧に見えたこの作戦はしかし、徐々に歯車を狂わせていきます。

まずジャックがエレベーターシャフトで何者かに殺害され、続いてハンナが車ごと爆発に巻き込まれます。モニターで状況を確認していたフェルプスは、やむなく作戦の中止を決断。しかしイーサンは命令を無視し、サラに尾行を続けさせる道を選びます。

フェルプスは敵が無線を傍受していることに気づき、イーサンに警告を伝えるため現場を離れますが、その途中で銃撃を受け橋から川へ転落。直後にゴリツィンも殺され、NOCリストは奪われてしまいます。

その後、クレアの車が炎上しているのを目撃したイーサンは、たった一人生き残った状態で公衆電話からIMF本部のキトリッジに連絡を取ります。

このパートでは、チームの顔ぶれ、能力、信頼関係、そしてIMFという組織のスパイネットワークとしての機能が描かれる一方で、それらが次々と崩壊していくさまが克明に示されます。

整然とした「任務の世界」が音を立てて崩れていくことで、イーサン・ハントというキャラクターは何もかもを失った状態から、自力で真相へと切り込んでいく存在へと変貌していくのです。

きっかけ(Catalyst)

仲間が次々に命を落とし、ジムまで銃撃を受けて姿を消すなか、唯一生き残ったイーサン・ハントは、公衆電話からIMFの監督官キトリッジに連絡を取ります。キトリッジはなぜかプラハにおり、イーサンに1時間後の面会を指示。疑念を抱きつつも指定されたレストランへ向かったイーサンは、キトリッジと対面します。

この会話こそが「きっかけ」となる出来事です。キトリッジはIMF内で2年前から情報漏洩が続いており、今回の任務はその裏切り者をあぶり出すための囮作戦だったと明かします。

そして作戦の失敗にもかかわらずイーサンだけが生き残った事実──彼の口座に身に覚えのない大金が振り込まれていたことなどを理由に「裏切り者はお前だ」と告げるのです。

この瞬間にイーサンの立場は一変します。組織に属する諜報員だった彼はたった今「容疑者」にされ、組織から切り離された孤独な逃亡者へと追い込まれるのです。

これまで信頼していた上層部、支えていた任務、そして命を預けていたチーム全てが崩壊し、イーサンは自分一人の判断で動かざるを得なくなります。

店の異常な空気と監視の多さに気付いたイーサンは即座にガム型の爆薬を使って場を混乱させ、その場から逃走。彼の単独行動が始まります。

きっかけとなったこの対面は主人公の立場を劇的に反転させるイベントであり「何を信じ、どう動くか」を全て自己判断に委ねられる展開の始まりです。

全体を通して「裏切りの物語」であることを明示すると同時に、以後のすべての行動が「信じられるのは自分だけ」という前提で動くことになる、まさに物語のスイッチングポイントとなっています。

悩みのとき(Debate)

IMFから裏切り者として疑われ、爆破によってかろうじてその場を逃れたイーサンはプラハのIMFアジトへと戻ります。仲間を失い、組織にも追われ、誰も信用できない状況で彼が最初に行うのは「状況の整理」と「思考の再構築」でした。

自らの無実を証明するには本当の裏切り者を見つけるしかない。そう考えたイーサンは、裏切り者のコードネームが「ヨブ」であることを突き止め、武器商人マックス宛てに「リストは偽物、極めて危険、使用するな」というメッセージを送信します。これは、マックスとヨブの接触ルートに自ら入り込むための賭けでした。

そこへ死んだと思っていたクレアがアジトへ戻ってきます。彼女は「命令通りに行動していただけ」と語り、表情にも矛盾は見られません。イーサンは彼女を疑いながらも確証がないため静観。ここで彼は初めて信頼を切り離した状態で人間関係を再構築する必要に迫られます。

組織も仲間も信用できない。かといって全てを敵と見なせば何も進められない。この板挟みの状況こそが、まさに「悩みのとき」そのもの。鎖やダブルバインドといった状況は「失敗しようがない」面白要素。うまく入れたものです。

マックスから返信が届いたことで、イーサンはヨブとして行動するチャンスを得ます。裏切り者を炙り出すためには自らが罠の中に入っていくしかない──イーサンは組織への信頼も過去の絆も捨て、危険な取引へと踏み出す決意を固めます。

この時点で彼はまだ明確な敵を掴めていません。それでも動き出すしかない──つまりこのパートは「信頼を失った人間が、自分自身の判断だけで世界と対峙する」という本作の中核にあたる心理的な起点であり、以後の行動にすべての意味が生まれてくる下地となっています。

第一ターニング・ポイント(Break into Two)

裏切り者のヨブを名乗り、マックスに接触を試みたイーサンのもとに返信メールが届きます。そこには取引の条件と接触方法が記されており、イーサンはそれに従って行動。マックスのアジトへと単身赴きます。

初対面となるマックスは意外にも初老の女性でした。イーサンは「リストは偽物で、仕掛けられた罠だった」と説明し、実際にディスクを再生させてみせます。その瞬間、彼の言葉通りにCIAが突入。罠であることが証明されたことで、マックスはイーサンに興味を示しはじめます。

イーサンはさらに一歩踏み込み「本物のNOCリストを入手してみせる」と持ちかけます。その条件として提示したのは1000万ドルの報酬と、ヨブを呼び出すこと──すなわち、裏切り者の正体を暴くことです。

ここで物語は明確に第二幕へと突入します。イーサンはもう組織の一員ではありません。むしろ、自ら偽の裏切り者を演じることで、真の裏切り者をあぶり出すというスパイの中でも極めて危険な役割に踏み出したのです。

以後、彼の行動原理は「正義のために戦う」というよりも「真実を暴くために自らを囮にする」ことに切り替わります。これは主人公としての能動性が最大化される瞬間であり、物語のギアが一段上がる境目でもあります。

また、ここで表の世界から裏の世界へと身を投じたことで、元のトーンもより濃密で閉じたスリラーへと移行します。イーサンはもう追われる側ではなく、仕掛ける側となったのです。

この第一ターニング・ポイントによって、『ミッション:インポッシブル』の物語は単なる冤罪スパイ逃走劇から、二重スパイの心理戦という新たな段階に突入します。まさにターニング・ポイント!

お楽しみ(Fun and Games)

マックスと取引を成立させたイーサンは真の裏切り者をあぶり出すために「本物のNOCリスト」を盗み出す計画を立てます。その標的はCIA本部の厳重に管理された金庫室──物理・温度・音圧、すべてのセンサーに守られた場所。正攻法では決して突破できない、映画史上屈指のインポッシブルなミッションがここに描かれます。

イーサンが目を付けた協力者は腕利きの天才ハッカー「ルーサー・スティッケル」。裏社会でも一目置かれる彼はIMFに不信感を持ちつつも、イーサンの目的に共鳴してチーム入りします。

さらにクレアが連れてきた元CIAの工作員でパイロットでもあるクリーガーも加わり、少数精鋭の新たなチームが結成されます。

ルーサーは外部からの通信を監視・制御。クレアは職員になりすまして金庫担当官に薬を盛り、嘔吐の隙を作ります。クリーガーと共にダクトから潜入したイーサンは、天井のエアダクトからロープで吊るされ、金庫室内部のセンサーに一切触れることなくコンピューター端末へと近づいていきます。

宙吊り状態での操作、汗一滴すら落とせない緊張感、落としたナイフを間一髪でキャッチする静寂の中のスリル──この一連のシーンはシリーズ屈指の名場面であり「不可能を可能にする」タイトル通りの名シークエンスとなっています。

一体どれだけのパロディーが存在するのか……

このパートは、イーサンが逃亡者としてではなく、再び主導権を握ったことを象徴しています。チームの再構築、新たな仲間との信頼構築、そしてIMFやCIAといった巨大な組織の網の目をくぐる逆スパイの知略!

観客にとっても物語上もっとも娯楽性が高く、なおかつ構造的にも重要な山場です。ここでイーサンはリストを手に入れ、舞台はロンドンへ。物語は裏切りの真相に一歩ずつ近づいていきます。

サブプロット(B Story)

『ミッション:インポッシブル』におけるサブプロットは、イーサンの「信頼と疑念のはざまで揺れる心」そのものです。なかでも象徴的な存在がチーム唯一の生存者クレアと、新たな協力者ルーサーです。

クレアはジム・フェルプスの妻であり、イーサンとは長年の同僚でもあります。彼女が生き残っていたことは奇跡ともいえる一方、任務失敗の直後にアジトへ戻ってきたタイミング、爆破からの生還理由、そのすべてがどこか曖昧。イーサンは彼女を信じたいという気持ちと、何かを隠しているのではないかという疑念の間で揺れ続けます。

天才ハッカーのルーサーとの関係も重要です。表面上は軽口を叩きつつも、ルーサーは次第にイーサンの誠実さに共鳴し「仲間」として行動するようになります。特にCIA本部からの脱出後に見せる落ち着きや技術的な信頼性の高さは、イーサンにとって数少ない「頼れる仕事仲間」としての地位を確立していきます。

このBストーリーの核心は「信頼は構築できるのか」という問いです。チームが壊滅し、組織にも裏切られたイーサンが、再び誰かと「チームを組む」という選択をする──その小さな人間関係の再生が、物語の中心にある大きな裏切りと対照を成しています。

物語が進むにつれて、クレアへの不信とルーサーへの信頼の差がくっきりと浮かび上がり、イーサンの心理状態にも変化が現れていきます。そしてその感情の揺らぎが、後半で訪れる衝撃的な再会と対決に向けた、強力な伏線として機能していくのです。

ミッドポイント(Midpoint)

CIA本部から奪ったNOCリストを手に、イーサンはマックスとの次なる接触の場──ロンドンへと向かいます。緊張の取引現場、そしてリストをマックスに渡したその瞬間、物語はついに裏側を見せ始めるのです。

最大の衝撃は、死んだはずの男──ジム・フェルプスの再登場です。イーサンはロンドンの安全なアジトで姿を現したジムから「黒幕はキトリッジだ」と聞かされます。かつての恩師であり、仲間を失った責任を共有していたはずの人物の生存。そしてその口から語られる組織の腐敗。しかしイーサンの表情は驚きと共に、どこか冷静でもあります。

このシーンでは、ジムが語る筋書きをイーサンがそのまま受け入れていないことが示されます。観客には明確に描かれませんが、イーサンはすでに本当の裏切り者が誰であるかを見抜いており、あえて問いたださずにジムの言葉を聞いているのです。

ここが物語の折り返し。表向きの情報が全て揃い、裏側が見え始める瞬間です。イーサンはこの時点で敵と味方、真実と虚構の境界線を見極め、最終戦に向けて着々と準備を進めていきます。

一方でマックスとヨブの接触は目前に迫っており、NOCリストのデータはすでに相手の手に渡っている──時間との勝負、そして正体を明かさずに敵を誘い出す駆け引きは、ここから次の段階へと加速していきます。

ミッドポイントで明かされた生存者の真相は物語を完全に裏返し、観客にも「誰を信じればいいのか」という本作最大の問いを突きつけます。

迫り来る悪い奴ら(Bad Guys Close In)

ロンドンでジム・フェルプスと再会したイーサンは、彼が語る「キトリッジ黒幕説」に耳を傾けつつも、内心ではすでに真相に気づいています。生き残った唯一のチームメンバーであるクレアに対しても信じきれない感情がじわじわと膨らみ、視線や行動の端々に警戒心がにじみます。

一方、CIA側もイーサンの行動を追跡し続けており、キトリッジはすでにロンドン入り。イーサンを確保するために情報を収集しつつ、彼の仲間にまで包囲網を広げ始めます。イーサンが拠点としていたセーフハウスが襲撃されるなど、物理的な危機も迫ってくる中で、彼は次の一手を急がされることになります。

さらにクリーガーの行動にも不審な点が浮かび始めます。CIA本部からNOCリストを持ち出した張本人でありながら、記憶メディアをイーサンに引き渡す際の態度、そしてクレアとの間にある微妙な空気。全員が「仲間でありながら信用できない」という構造が極限まで高まり、イーサンは再度孤立していきます。

すべてを失って(All Is Lost)

イーサンはNOCリストをマックスに渡し、ヨブ──すなわち真の裏切り者をおびき出す最後の舞台として、ユーロスター車内での取引を設定します。しかしその裏で、状況はさらに複雑、そして危険に傾き始めます。

まず、クレアの態度が決定的に変化します。イーサンとふたりきりになった際、彼に「まだ信じてくれているの?」と問いかけながら、どこか別の意図を隠しているような雰囲気を見せます。イーサンは彼女の行動すべてを静かに観察しており、すでに彼女がジムと通じていることを確信し始めています。

加えてクリーガーも明確に信用できない存在となり、もはやイーサンの周囲には完全に信じられる者が誰もいない状態になります。ルーサーだけが最後の希望として行動を共にしているものの、物理的にも心理的にもイーサンは孤立の極致に達します。

情報戦、心理戦、そして表向きの協力関係──すべてが敵の罠であるかのように思える状況のなか、イーサンは何も口にせず、ただ行動の中で答えを見せていくしかなくなります。

このパートでは、主人公の孤独が決定的になります。組織からも、かつての仲間からも見放され、誰が敵で誰が味方かもはや曖昧なまま、最後のミッションへと突入していく。依然として迫る「悪い奴ら」は、もはや単なる敵ではありません。

正体を隠したまま近づいてくるジム、何を考えているか読めないクレア、裏切りの気配を漂わせるクリーガー、そして静かに迫るキトリッジ。外からも内からも、あらゆる立場の人間がイーサンに圧力をかけてくる構図が出来上がっていきます。

精神的・肉体的に包囲され、イーサンの孤立は極限へ。彼はすべてを失いかけながらも、唯一手にしている武器「情報と洞察力」をもとに、敵を誘い出す最終作戦に向けて動き始めます。

観客にとっても、ここが最も不安定で張り詰めた時間。何が起こるか予測できず、誰も完全には信用できない── そんな状況こそが『ミッション:インポッシブル』の緊張感を支える核となっています。

心の暗闇(Dark Night of the Soul)

列車内での決戦を目前に控え、イーサンはついに覚悟を決めます。裏切り者ヨブの正体がジム・フェルプスであることは、もはや疑いようがありません。しかし、それを明言することは、信じていた師を明確に敵と断定することでもあります。

さらにクレアがジムと共謀していたとすれば、イーサンにとっては仲間も、情も、全てが嘘だったことになります。敵と味方の区別は崩れ、かつての仲間たちの死までもが仕組まれたものであったとしたら──これほど残酷な真実はないでしょう。

このパートではイーサンの台詞や大きなリアクションはありません。けれど、その静かな行動が全てを物語っています。彼は列車の中に盗撮装置を仕掛け、ジムの動きを監視する準備を進め、そして自ら罠を張るようにして「敵と対峙する場」を設計します。

内面の葛藤、怒り、哀しみ、そして決意。言葉にならない感情の全てが彼の準備の手つきに現れています。誰も頼れない世界でたった一人、自らの信念だけを武器に敵に立ち向かう。これがスパイという職業を超えた「人間としての選択」でもあるのです。

ここで描かれるのは、戦う理由ではなく「なぜ最後までやるのか」という静かな問いです。たとえ仲間に裏切られても、たとえ真実が誰にも信じられなくても、イーサン・ハントという男は、もう止まることを選びません。

闇の中で燃える最後の一点の火──それが、今作のクライマックスへと繋がっていきます。

第二ターニング・ポイント(Break into Three)

舞台は移動列車・ユーロスター。スパイ映画らしい「閉ざされた空間」の中。リストはマックスの手に渡り、マックスの前にはヨブが現れる手はず──もちろんその正体はすでにイーサンの中で確定していました。

列車内にてイーサンはクレアと二人きりで対話の場を設けます。クレアは最後の一線を越えることなく、自分なりの正当性を語ります。しかしその姿を見ていたのは、変装を解いて現れたジム・フェルプス。イーサンの疑念はここで明確に確信へと変わります。

ジムは銃を取り出し、イーサンの手から金を奪おうとしますが、そこに仕込まれていたのは録音装置でした。車内での会話は全て記録され、イーサンはその情報をCIA側に伝えていました。

列車にはすでにキトリッジが乗り込んでおり、イーサンはマックスとジムの両方を組織の目にさらけ出す作戦を仕掛けていたのです。

ここでイーサンはついに「自分が正しいと信じる方法で勝つ」という道を選びます。仲間も組織も信用できない中で、最終的に彼が選んだのは、あくまでも冷静な情報戦と、証拠に基づく暴露。銃や力ではなく、構造そのものを利用するという選択こそ彼の最大の強みです。

そして物語は、ラストアクションへと突入していきます。ジムは銃を持って逃走、ヘリコプターを用いて列車を強行突破しようとするという、常軌を逸した展開へ。静かだった心理戦はここで一気に爆発し、まさにフィナーレの爆心地へと向かっていきます。

フィナーレ(Finale)

ユーロスターの車内でイーサンはすべてを繋ぎ合わせたピースを一気に見える形にしていきます。マックスには偽のNOCリストを渡し、ジムとの会話は録音済み。列車にはキトリッジが乗車し、情報はすべてCIAへと渡っている──罠にかかったのは、かつてイーサンを罠にかけた者たちでした。

クレアはジムを止めようとしますが、ジムは彼女を撃ち、屋根上へと逃走。そこに待っていたのはヘリコプター──そう、あの橋での落下以降、ジムはヘリを使った逃走ルートを計画していたのです。だがその策もイーサンは読み切っていました。

イーサンは列車屋根に飛び乗り、疾走する車両の上でジムと対峙。迫りくるトンネル、連結されたヘリ、強風と騒音の中で繰り広げられる肉弾戦。吊るされたロープ、回転するローター、引きちぎられる鉄骨──あらゆる要素が高速で絡み合い、観客の目を離させません。

そしてついにイーサンはトンネル内に突入した列車の屋根で、ヘリと共にジムを巻き込みながら最後の賭けに出ます。ヘリの爆発、衝撃、そしてギリギリで命をつなぐジャンプ。まさに「インポッシブル」の名に相応しい、シリーズ史上初の超絶アクションで物語はクライマックスを迎えます。

並行して車内ではマックスとキトリッジが対峙。リストは偽物であることが証明され、マックスもCIAに確保。事件はすべての関係者の前で決着し、表の世界と裏の真実が一つに収束していきます。

かつての仲間、裏切り、そして信頼の再構築。イーサンはこの一件を通じて、自らの正義と能力だけで道を切り開きました。戦いの決着は単なる勝利ではなく「真実を握る者が勝つ」というスパイ映画の原則そのものです。

ファイナル・イメージ(Final Image)

すべてが終わった後、イーサンとルーサーはIMFへの復職を持ちかけられます。ですがイーサンは復帰を拒否して飛行機に──そこで待っていたのは、かつてフェルプスが受け取ったビデオレター形式でのミッション。やっぱり導入は、

「おはよう、ハントくん」

どうやら拒否権はないらしい。ただ静かに、それを受け入れるだけ。まるで「この道を選ぶしかない」と知っているかのように。彼はすでに、組織の中の誰も信じられず、仲間も恋情もすべて裏切りの中に消えたあとです。それでも、まだ終わっていないと知っている──そういう顔をしています。

このラストシーンが示すのは、派手な勝利ではなく、背負ってしまった者の静かな再出発です。イーサンは逃げきったのではなく、戦い続ける道を選んだのです。信頼を失った世界で、もう一度立ち上がる。そういう男として。

スパイ映画としては珍しく、祝福も喝采もない。それでも、この静けさが本作の本質です。
勝ったのではなく、耐え抜いた──それがイーサン・ハントという男の最初の物語の、最後のイメージでした。

『ミッション:インポッシブル』主な制作陣・キャスト

ブライアン・デ・パルマ【監督】

サスペンスと映像演出に定評のあるアメリカの映画監督。本作では緻密な構成と心理戦を軸に、スパイ映画にスリラーの要素を強く持ち込んだ。

代表作

  • アンタッチャブル
  • キャリー
  • スカーフェイス
  • ミッション:インポッシブル

トム・クルーズ【イーサン・ハント役/製作】

主演かつ製作も兼任。孤独なスパイ・イーサン像を体現し、以降もシリーズを牽引する代表作に。徹底した肉体アクションでも注目。

代表作

  • トップガン シリーズ
  • ラストサムライ
  • マイノリティ・リポート
  • ミッション:インポッシブル シリーズ

ヴィング・レイムス【ルーサー・スティッケル役】

ハッキングを担当する技術屋。以降もシリーズにおける数少ない常連キャラとして出演。

代表作

  • パルプ・フィクション
  • ダウン・イン・ザ・デルタ
  • ドーン・オブ・ザ・デッド
  • ミッション:インポッシブル シリーズ

ジョン・ヴォイト【ジム・フェルプス役】

裏切り者となる元上司フェルプスを、穏やかさと冷酷さを併せ持つ演技で演じた。

代表作

  • 真夜中のカーボーイ
  • デリバランス
  • アナコンダ
  • ミッション:インポッシブル

エマニュエル・ベアール【クレア・フェルプス役】

ジムの妻でありイーサンのチームメンバー。感情の読めない表情が終盤の緊張を高める。

代表作

  • 美しき運命の傷痕
  • 愛と宿命の泉
  • ミッション:インポッシブル

ヴァネッサ・レッドグレイヴ【マックス役】

情報屋マックス役で登場。知性と余裕を感じさせる存在感で異彩を放った。

代表作

  • つぐない
  • ディープ・インパクト
  • マーラー
  • ミッション:インポッシブル

ヘンリー・ツェーニー【ユージン・キトリッジ役】

冷静なIMF上官として登場。シリーズ後年(『デッドレコニング』)で再登場を果たす。

代表作

  • クリア・アンド・プレゼント・デンジャー
  • ミッション:インポッシブル
  • ミッション:インポッシブル/デッドレコニング

なぜミッション:インポッシブルは現代スパイ映画の始まりとなったのか

1996年に公開された「ミッション:インポッシブル」は、それ以前のスパイ映画とは一線を画す構造と映像センスを持ち、後続のスパイアクション映画の基準を塗り替えた作品です。

単なるリメイクやノスタルジーではなく、完全に再定義されたジャンルとして誕生したこの一作が、なぜそこまで新しかったのか──特徴を整理してみましょう。

MI登場以前のスパイ映画との違い

正義の組織 vs 巨悪ではない

ジェームズ・ボンドや冷戦期スパイ映画ではMI6やCIAが絶対的な味方として描かれることが多かったが、MIではIMFすら主人公を追い詰める存在として登場。組織そのものが信頼できない構造が画期的です。

裏切りと偽装が前提となっている

映画の前半で提示されたチームや関係性がすべて崩れ、終盤に向けて完全に再構築される脚本は当時として極めて異例。ある意味「それまでのスパイ映画に慣れ親しんだ観客」をも騙す構造となっています。

情報戦・心理戦に重きを置いた展開

ガジェットや格闘よりも、変装、録音、仕込み、駆け引きなど頭脳で勝つスパイの姿が強調されています。かといってアクションが地味かというと……メチャクチャ派手!

逆を行ったのが「キングスマン」シリーズ

シリーズ化前提でない物語

続編ありきではなく、一作限りで完結する重厚さと寂寥感──チームの再編成ではなく、信頼の喪失で終わるスパイ像が描かれます。プロフェッショナルとは孤立してもこうあるはず、みたいな美学が感じ取れます。

スパイの日常を極限まで削ぎ落とした映像演出

会議も回想もモノローグもなく、ほぼ全編を現在進行の任務で構成。セリフよりも動作と状況で物語が進行していきます。だからこそ引き立つキャラクター達の感情や行動……! 情報から「人間」は描けないということなのでしょう。

組織追放はイーサン・ハントに倣え

ミッション:インポッシブルは、ジャンルそのものの常識を裏切ることで、スパイ映画を刷新した作品。情報を誰よりも早く読み取り、組織に頼らず、自らの信念と判断だけで任務を遂行する。その姿は、もはやただの任務の遂行者ではなく現代スパイ像そのもの!

信じていた仲間が敵になる。組織すら信用できない。それでも動き続ける者を、我々はヒーローと呼ぶのか──その問いの始まりが、この作品には確かに刻まれています。

職と尊厳どころか命まで狙われてなお立ち向かう、真の追放モノとはミッション:インポッシブルのことをいうのでしょう。

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