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脚本術・理論 2025/5/5
Written by 鳥羽才一

プロもこっそり使ってる! 映画に学ぶライトノベルとマンガのプロット構築法

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映画の構成技術はラノベやマンガにもそのまま使える! 物語の「型」を学ぶことで、あなたの作品はもっと読まれるように──映画脚本術「Save the Cat!」をベースに、プロットの作り方を分かりやすく解説します。

Contents

なぜ映画に学ぶべきなのか?

エンタメを追い求めるライトノベルやマンガのストーリー構築で「映画から学ぶ」という発想は一見すると遠回りに思えるかもしれません。ですが映画脚本の構造は物語の核である「展開(流れ)」「緊張感」「読者の期待管理」において非常に実用的。

 映画は90〜120分という限られた時間で観客の心を掴み、物語を完結させる必要があります。そのため多くの脚本家たちは「物語をどの順序で語れば、人が自然に感情移入できるか」という点に特化したノウハウを積み上げてきました。

この“人の心を動かす順序”は、ラノベやマンガにおいても応用可能です。特に最近では「第1話で掴めなければ読まれない」「途中でダレたら切られる」といった事情からテンポの良い展開設計が重要に。

映画脚本の構造は、あなたの物語を「最後まで読みたい!」と思わせる武器になります。

Save the Cat! とは?

『Save the Cat!』はハリウッド脚本家ブレイク・スナイダーが提唱したストーリーテンプレートです。映画脚本と銘打ってはいるものの、その普遍的な構造からテレビドラマや小説、マンガなど幅広い分野に応用されています。

中核となるのは「ビートシート(Beat Sheet)」と呼ばれる15の物語展開パターン。これは物語を始まりから終わりまで、感情の起伏に沿って段階的に構成したものとなっています。

よくいわれる起承転結や三幕構成は、このStCを究極まで簡略化したものといえるでしょう。つまりSave the Catこそ真理──唯一無二の聖典なのです(回し者)! 特に、

  • きっかけ(Catalyst)
  • 悩みのとき(Debate)
  • お楽しみ(Fun and Games)
  • ミッドポイント(Midpoint)
  • 全てを失って(All Is Lost)

などは、それまで全脚本家が「そういうもの」として捉えていた概念を見事に言語化したセクション。たとえ映画の脚本を書かずとも、必ず参考になります。

『Save the Cat』は読者の感情曲線と一致する形で物語を構成するのが特徴です。特にライトノベルやマンガは、序盤でどれだけ世界観と主人公の魅力を提示できるかが勝負──この裏技的構造の応用にはメリットしかありません。

筆者にも「脚本術なんて……」と斜に構えていた時がありました。そういう弱ティルト状態ではこの文章も刺さらないというのは百も承知しています。ですが一度だけ信じてみてください、猫を……! 猫を救うのだ!!!!

ラノベ・マンガとの相性は?

ライトノベルやマンガはテンポのよい展開感情に訴える演出が重視されるジャンルです。その点で『Save the Cat!』のビートシートはすでに好相性が決まっているようなもの。

セットアップ(Set-Up)

主人公の性格や世界観、日常の問題が描かれます。ラノベでも「導入部」はまさにコレ。読者が一気に作品に入っていけるかの勝負どころです。

きっかけ(Catalyst)

物語が動き出す大事件や出会いの瞬間です。ヒロインとの出会いや異世界転移など「物語が始まる扉」がここに該当します。

お楽しみ(Fun and Games)

主人公が新しい状況に挑戦したり活躍するパート。バトル・学園生活・デート・冒険など、ラノベで最も「映える」見せ場です。

全てを失って(All Is Lost)

近年の流行りでは軽視されがちですが、主人公がどん底に落ちます。読者の感情を揺さぶるシリアス展開やヒロインとの別れなど、楽しませつつもハラハラさせる腕の見せ場です。

またマンガの場合、コマ割りやビジュアル表現と連動することで、よりビートの効き目がより強く、直感的に伝わるという利点もあります。

「お楽しみ」で差がつく! 追放ざまあ・後宮・悪役令嬢との相性

『Save the Cat!』の中でも、ラノベやマンガと特に相性が良いのが「お楽しみ(Fun and Games)」のセクションです。このパートは物語の「顔」になる要素が詰め込まれる場面──読者が「これは面白い!」と感じる最初のピークです。

裏を返せば、ここで読者を掴めないと「はい次」で読み飛ばされてしまう可能性も。しかし人気の追放ざまあ・後宮・悪役令嬢といったジャンルでは大チャンス! 

追放ざまあ:「ざまあ」はFun and Gamesでこそ輝く

「無能」と決めつけられて追放された主人公が、その後の人生で圧倒的な力や人望を発揮し、かつて自分を見下した連中に痛烈な“ざまあ”をお見舞いする──これはまさに「お楽しみ」そのもの。

  • 元恋人などが悔しがる
  • 元パーティーが崩壊して泣きついてくる
  • 新しい仲間たちと笑顔で大活躍

こうしたカタルシスと快感のラッシュは「お楽しみ」の濃縮還元! 存分にギミックを活躍させるチャンスです。

チー付与という謎の例外

後宮・宮廷ものは人間関係の宝庫に

後宮・宮廷モノの強みは華やかな舞台と複雑な人間模様。策略・嫉妬・陰謀・恋──まとめて「お楽しみ」にぶちこめます!

  • 主人公が機転で女官同士の争いを回避
  • 王子や妃候補との微妙な距離感
  • 一見ライバルな相手との共闘フラグ

物語の世界に読者を没入させるには、この段階で「その場に居合わせているような体験」を描くのがポイントです。

悪役令嬢:破滅フラグ回避こそ真の「お楽しみ」

「転生先が乙女ゲームの悪役令嬢だった」系は、王道のゲーム的ルール+コミカルなズレが読みどころ。

  • フラグをへし折りながら好感度を爆上げ
  • 本来ヒロインの攻略対象が次々と主人公に惹かれていく
  • 「あれ?これ私がヒロインでは?」という事態に

悪役令嬢なのに愛されてしまうという逆転劇こそ「お楽しみ」の醍醐味です。

こうして見ていくと、人気ジャンルの多くは「お楽しみ」に詰め込む要素が豊富であることがわかります。このセクションの濃さが、そのまま作品の“強度”になるといっても過言ではありません。

起承転結や三幕構成とはどう違うの?

「Save the Cat!」のビート構造は、一見すると日本の「起承転結」や、映画で定番の「三幕構成(Three Act Structure)」と似ています。ですがその精密さと読者の感情カーブへの配慮がまるで違います。

起承転結との比較:ざっくりすぎる日本式

起:導入 オープニングイメージ/セットアップ
承:展開 きっかけ(Catalyst)/悩みのとき(Debate)
転:転換 ミッドポイント(Midpoint)/全てを失って(All Is Lost)
結:結末 フィナーレ/ファイナル・イメージ

起承転結は短編に向いた構造で、中盤の葛藤やキャラ変化の描写が弱くなりがち。一方でStCは読者がどこで感情移入し、どこで驚き、どこで満足するかを丁寧に刻みます。

三幕構成との比較:骨組みは同じ、密度が違う

第一幕(序章) オープニングイメージ/テーマの提示/悩みのとき
第二幕(本編) お楽しみ(Fun and Games)/ミッドポイント/迫りくる悪い奴ら(Bad Guys Close In)
第三幕(クライマックス) 全てを失って(All Is Lost)/フィナーレ/ファイナル・イメージ

StCは「三幕構成の設計図に説明書がついたもの」。このシーンで何をやればいいかが明確で、より初心者に向いているといえるでしょう。

“楽しい”と“意味がある”を両立する

StCのスゴいところは、ただ物語を面白くするだけでなく、キャラクターの変化やテーマの回収を、読者が自然に追える形で組み込める。例えば「お楽しみ(Fun and Games)」パートのギャグや活躍が、あとで「全てを失って(All Is Lost)」で意味を持つ──そんな構造が最初から設計されています。

要するに、Save the Cat!こそ「読者の感情」「主人公の変化」「テーマの強調」をスムーズに連動させる物語の動線設計図──つまりバイブルなのです!

書くより読むのが好きな人も、一度自分が好きな作品と照らし合わせてみてください。よっぽど変化球──もといビーンボールみたいな作品ではない限り、ピッタリ当てはまるようになっています。

映画的構造はラノベ・マンガにも効く!

映画に学ぶ構成術──特に『Save the Cat!』は、ラノベやマンガでもそのまま活かせます。テンプレ的なラノベでは特に「お楽しみ(Fun and Games)」のパートを意識して**作品の“推しどころ”を明確に──くわえてジャンルに応じた展開を構造的に設計することで、

  • テンプレだけに頼らない差別化
  • 読後感の満足度向上
  • 長期連載やシリーズ化への布石

といった効果も見込めるでしょう。脚本術は映像作品だのためだけにあるわけではありません。ストーリーを語るすべての作家にとっての強力な補助線になることを覚えておきましょう。猫を救えば物語も救われる──これは誇張でもなんでもなく、事実です。

save the cat