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脚本術・理論 2025/4/15
Written by 鳥羽才一

シナリオ初心者必見! 脚本の救世主「Save the Cat!」前半パートの使い方と事例(サメもいるよ)

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なぜ"猫を助ける"必要が? シナリオ初心者が学ぶべき『Save the Cat!』の前半8ビートをわかりやすく解説! プロット作成や登場人物の作例のヒントを交え、脚本や構成の基本を紹介します。

Contents

『Save the Cat!』とは? 脚本術としての魅力と特徴

「Save the Cat!」の本当の意味とは?

「Save the Cat!(セーブ・ザ・キャット)」とは、脚本家ブレイク・スナイダーが提唱したストーリー構成法。由来は直訳すると「猫を救え」となります。これは物語の序盤で主人公が比喩的な意味で“猫を助けるような”善良な行動をとることで、観客がそのキャラクターに共感しやすくなる、という演出上のテクニックを象徴するワードとなっています。

たとえば、もし主人公が泥棒や殺し屋だったとしても、冒頭で困っている子供を助けたり、小さな善意を見せたりすることで、「この人を応援していいんだ」と観客に思わせることができます。この“共感のフック”こそが「猫を助ける」シーンの真意です。

この考え方は、単なる演出技法にとどまらず、ストーリー全体の構成にも応用されています。スナイダーは物語を 15のビート(節) に分け、観客の感情を自然に導くための「型」として体系化しました。それが『Save the Cat!』の大きな魅力であり、初心者からプロの脚本家まで広く活用されている理由でもあります。

サメじゃダメなの?

むしろ害を為すほうなのでダメそう。冒頭でサメを助けたらバカ映画確定。

なぜ多くのプロがこの構成法を使うのか

『Save the Cat!』がプロの脚本家や映画業界で広く支持されている理由は、その“わかりやすさ”と“再現性の高さ”にあります。ストーリーを15のビート(節)に分けて構造化すると「いつ・どこで・何を描くべきか」が明確になり、物語に一貫性とリズムが生まれます。

この手法は、いわゆる「三幕構成」や「起承転結」の理論とも相性がよく、特に商業映画やテレビドラマのように“観客を飽きさせずに物語を展開する”ことが求められる現場では、実用的なツールとして機能します。

構成の段階で迷子になりがちな脚本執筆において、ビートごとのガイドラインはまさに“地図”のような役割を果たすというワケです。

もちろん単なる理論だけでなく、具体的なテンプレートや実例が豊富に紹介されているのも『Save the Cat!』の強み──どのタイミングで感情の起伏を入れるか、主人公の成長をどう配置するかなど、構成を「演出」へと落とし込む実践的な知見が詰まっているので、初心者からプロまで使い続けることができるのです。

三幕構成との関係性

3匹の猫

『Save the Cat!』は独自のストーリービートを提唱していますが、その骨組みは「三幕構成」と強く結びついています。三幕構成とは、物語を「始まり(第一幕)」「中盤(第二幕)」「終わり(第三幕)」の3つに分けて構成する、古典的かつ普遍的なストーリーテリングの基本理論です。

ブレイク・スナイダーの15ビートは、この三幕構成をさらに細分化し、より具体的な設計図として再構成したものといえるでしょう。

たとえば、「きっかけ(第四ビート)」は第一幕の転換点にあたり、「 第一ターニング・ポイント(第六ビート)」は第二幕への橋渡し、「 第二ターニング・ポイント(第十三ビート)」は第三幕への突入点となります。

このように『Save the Cat!』は三幕構成の基本構造を踏襲しながら、それぞれの幕の中に明確な「展開ポイント」を設けることで、物語をよりドラマチックかつ観客の感情に訴えるものへと導いてくれます。

シンプルな三幕構成に「実践的な詳細設計」が加わったことで、初心者にも扱いやすく、プロにとっても再現性のある構成法──つまり基礎にして真理となっているのです。

サメ映画のほとんどが無視しています

脚本構成のカギ!『Save the Cat!』前半7ビートとは

ジョーズのサメ

脚本執筆において最も難しいのが「どこで何を描けばいいのか」という構成の問題です。物語を15のビートに分けることで、『Save the Cat!』はそれぞれの場面で何を描くべきかを明示しています。

ここではその中でも、物語の基礎を築く前半7つのビートに注目し、初心者にもわかりやすく解説していきます。

これらのビートは、観客が主人公に共感し、物語の世界に引き込まれていくための土台となる部分。しっかりと押さえることで、シナリオ全体の説得力と魅力がぐっと高まりますよ!

① オープニング・イメージ(Opening Image)

物語の最初に提示される“1枚の絵”のようなシーン。ここでは、主人公がどんな世界に生きていて、どんな問題を抱えているのか、観客に直感的に伝える役割があります。

たとえば、忙しなく働く主人公の姿や、孤独な日常風景など──このシーンはラストの「ファイナル・イメージ」と対になることが多く、物語を通してどんな変化があったのかを象徴的に示すことにも繋がっています。

あまり人気のない作品で「なんとなくノれないな……」みたいな時は大体このセクションがうまく作れていません。

サメ映画はココが分かりやすい

オープニング・イメージが秀逸な映画

  • タイタニック:沈没船の調査シーンから始まり、過去への回想が全編を貫くことを予感させる。
  • フォレスト・ガンプ:羽が舞い降りる静かなシーンが、運命と偶然というテーマを象徴。
  • ダークナイト:静寂から一転、銀行強盗が始まる衝撃的な導入で、混沌と秩序の対立が提示される。テンションも爆上がり!

② テーマの提示(Theme Stated)

ここでは、物語を通して描かれる「問い」や「メッセージ」が、セリフや出来事としてほのめかされます。主人公自身がまだ気づいていないテーマが、別のキャラクターの口を通して提示されるのが典型的パターン。

たとえば、「人生は思い通りにいかないものだ」「愛とは犠牲だ」など、後の展開を通じて主人公が学ぶべき価値観がほのかに語られる瞬間です。

とはいえ、あまりに露骨だと説教臭い作品だとレッテルが貼られてしまうことも。あくまでさりげなく、他のシーンと馴染むように推敲を重ねましょう。

サメ映画の場合はテーマが"サメ"になりがち

テーマの提示が馴染んでいる映画

  • スパイダーマン(2002年):ベンおじさんの名言「大いなる力には、大いなる責任が伴う」が、全編のテーマを定義。一番有名なヤツ。
  • トイ・ストーリー:ウッディがバズに嫉妬する場面で「自分の居場所とは何か?」というテーマが浮かび上がる。最初なのにちょっと辛い。
  • インセプション:夢の中の世界と現実の境界が曖昧になる中で「本当に信じられるものは何か?」という問いが示される。結局オチはどっちなの……!?

③ セットアップ(Set-Up)

主人公の性格、日常、主要な人間関係、欠けているもの(フロウ)などが明確になるパートです。観客が物語の世界に入っていくために必要な「背景」を、ドラマを通して自然に見せるのがポイント。

このパートでしっかりと土台を築けば後の展開がスムーズになり、感情的なつながりも深まります。また、後半で登場するみんな大好き「伏線」も、ここで配置されることが多いです。

サメ映画はココが曖昧

セットアップが秀逸な映画

  • ハリー・ポッターと賢者の石:ダーズリー家での生活や魔法界の存在が描かれ、非日常への伏線が張られる。ワクワク!
  • パディントン:ロンドンにやってきたクマの困惑と、ブラウン一家との出会いが日常のスタートとして描かれる。
  • バック・トゥ・ザ・フューチャー:マーティの家庭、学校、夢がコンパクトに紹介される冒頭。2度目3度目でも新たな伏線が見つかる不思議。

④ きっかけ(Catalyst)

日常を破壊する、劇的な出来事が発生するパート。これによって物語は動き始め、主人公は変化を迫られることになります。事故、別れ、依頼、出会いなど、主人公にとって避けられない“事件”がここに位置します。

観客にとっては「この話はこう動くのか!」という方向性が明確になる重要な場面である、いわゆる「総スカン」が発生しやすいポイント。ここが曖昧だと印象が薄い作品になってしまうので注意。

サメ映画はサメが出たり出なかったり。出ないことのほうが多い

きっかけが分かりやすい映画

  • マトリックス:ネオが赤いピルを選び、仮想世界の真実へ飛び込む決断。究極に分かりやすい”きっかけ”。
  • もののけ姫:呪いを受けたアシタカが、村を離れる決意をする。
  • ファインディング・ニモ:ニモが人間にさらわれ、マーリンの旅が始まる。

⑤ 悩みのとき(Debate)

主人公が「行くべきか、やめるべきか」と葛藤するシーン。新たな状況に踏み出すかどうかを迷い、恐れ、不安と向き合います。この迷いや葛藤を描くことで、主人公の決断がよりドラマチックに見えるようになります。

このビートがしっかりしていると、次の大きな一歩(第一ターニング・ポイント)がより力強く感じられます。逆にそれまでのセクションが上手く働いていないと共感が得られないことも。

サメ映画はノリで押し切りがち

悩みのときが分かりやすい映画

  • スパイダーマン2:ヒーローを続けるか、普通の人生を選ぶか、ピーターが苦悩する。
  • 千と千尋の神隠し:千尋が異世界で自分の居場所を見つけるべきか悩む。
  • キャプテン・マーベル:キャロルが「自分は何者なのか」に葛藤しながら覚醒を決意する。

⑥ 第一ターニング・ポイント(Break into Two)

迷いを振り切り、主人公が“日常”を離れて“新たな世界”に足を踏み入れる瞬間です。物語の第二幕がここから始まり、主人公が本格的に行動を開始します。

このパートで重要なのは、「主人公が自らの意思で一歩を踏み出す」こと。受け身ではなく、決断したうえで物語に突入することで、観客も感情的に引き込まれていきます。

サメ映画だとモジモジしている間にモブが食われる

第一ターニング・ポイントが秀逸な映画

  • 魔女の宅急便:キキが見知らぬ町で独り立ちし、仕事を始める決意。
  • スター・ウォーズ エピソード4:ルークが旅立ち、銀河規模の冒険が始まる。
  • ハンガー・ゲーム:カットニスが妹の代わりに名乗りを上げ、「戦いの場」に足を踏み入れる。

⑦お楽しみ(Fun and Games)

いわゆる「予告」や「引き」で期待させた“お約束”を果たすシーン。ホラーなら怪物が本格的に登場、能力を手に入れたならその力で大活躍! 構想段階で「一番面白い」と思ったシーンを詰め込むだけ──ここがダメならサメ映画になっちゃうかも……?

ぼんやり書き始めて、自分で何が売りなのかを理解しないままだと、意外にハマるポイント。頭の中で映画の予告を作りましょう。

⑧サブプロット(B Story)

本筋とは別に進行する副次的なストーリー。多くの場合は人間関係──特に恋愛や友情、家族との関係などが中心です。このサブプロットはテーマの理解を深めたり、主人公の成長を促したりする重要な役割を果たします。

Bストーリーの登場人物は、主人公にとって鏡のような存在であり、メインストーリーでは得られない視点を与えてくれることが多いです。

反面「痛快娯楽!」メインな90分映画だと端折られることも。無理に入れると「またこれか~」みたいな反応になるので、なければないで困らないかも。

サメ映画には絶対無駄なセクシーシーンがある。だいたいココ

サブプロットが美しい映画

  • ダークナイト:ブルースとレイチェルの関係を通じて「正義と犠牲」のテーマが深掘りされる。
  • ズートピア:ジュディとニックの関係が、信頼と偏見を乗り越える物語の中核に。
  • グッド・ウィル・ハンティング:主人公と心理学者ショーンの絆が、心の成長と癒しを描く。

初心者でも実践できる! 各ビートの使い方とポイント

ビートを活かしたシナリオ展開のコツ

『Save the Cat!』のビートは、単なるチェックリストに留まらず、物語に“リズム”と“感情の起伏”を与える設計図です。各ビートには「ここで観客が何を感じるべきか」が内包されていて、それを意識することでストーリーは自然に動き出します

たとえば、きっかけ(Catalyst)での“事件”は、主人公を受け身のままにせず、意志を持って動かすトリガーにすべきです。第一ターニング・ポイント(Break into Two)では、主人公が「行動を起こす覚悟」を持たなければ始まりません。

行動の変化が、観客の感情に説得力を与えるのです。つまり──「覚悟」が道を切り開くッ! 

登場人物の設定と動機付けをどう絡めるか

魅力的なストーリーには、魅力的な人物が不可欠です。ビート構成を活かすためには、登場人物の“欲求”と“葛藤”が明確である必要があります。

たとえば『ローマの休日』のアン王女は、「自由に生きたい」という欲求と「王族としての義務」という制約の間で揺れ動きます。この“二重構造”の欲求が、ビートごとの展開に感情の厚みを与えているのです。

セットアップで日常と閉塞感を描き、カタリストで外の世界に飛び出し、ディベートで「戻るべきか」「進むべきか」に悩む――こうした内面の動機が、各ビートを支える柱となります。

いわゆる「身につまされる」、つまり、いかに伝える相手の「自分事」に置き換えさせるかを考えなくてはいけません。

表面をなぞったテキストだと一言で「共感」と片付けられがちですが、いかにそれが難しいことか……!

実際の映画を参考に構成を学ぶ(例:『ローマの休日』)

『ローマの休日』は、クラシカルなストーリーながら、『Save the Cat!』のビート構成に非常に忠実です。

  1. オープニング・イメージ:王女としての窮屈な日常が描かれ、彼女の「変わりたい」という欲求が示唆される。
  2. きっかけ:王宮を抜け出し、睡眠薬の影響で倒れてしまう。
  3. 第一ターニング・ポイント:新聞記者ジョーと出会い、身分を隠したまま「普通の女の子」としてローマの街を冒険する決意をする。
  4. Bストーリー:ジョーとアンの関係が深まり、テーマである「自由と責任」「真実と愛」が浮かび上がってくる。

このように名作といわれる映画を紐解いて観察すれば、ビートの実践的な使い方が自然に頭に入ることに。初心者にとっても「なんとなく面白い」ではなく「なぜ面白いのか」を言語化する第一歩へと繋がります。

前半ビートを踏まえて、後半構成へつなげるには

ミッドポイント以降への自然な流れを作る

前半の7ビートは、主人公と物語世界の「導入と準備段階」ですが、それらは後半のドラマティックな展開への布石でもあります。特に重要なのが、第一ターニング・ポイントからミッドポイント(物語の中間地点)への滑らかな移行。

ここで意識すべきは「主人公の行動によって物語が加速する」という流れ。受け身だった主人公が自ら選択をし、その結果として新たな課題や発見が生まれることで、ストーリーは自然と“第二幕の後半”へとシフトします。

たとえば『ローマの休日』では、アン王女が街で様々な経験を通して「本当の自分」を見出していく中で、ジョーへの想いと“真実”という重たいテーマが浮上し、ミッドポイントに向けた大きな波が生まれていきます。

「対立の深まり」への布石とは?

後半ビートでは、物語はよりシリアスに、より感情的に深まっていきます。そのため、前半のビートの中で 「対立」「ジレンマ」「選択の伏線」 をしっかりと仕込んでおくことが重要です。

具体的には、セットアップで提示された“欠けているもの”が、後半でどうぶつかり、どう克服されるかを意識して配置します。主人公と周囲の人間関係、あるいは「理想と現実」の対立が、後半のクライマックスを支える柱になるのです。

『ローマの休日』では、アンが「普通の人生」を選べない現実と向き合うための前振りが、街での小さな冒険や人との触れ合いを通して丁寧に描かれています。この積み重ねが「すべてを失う」瞬間や最終的な選択の重みを増しているのです。

次回:後半8ビートでクライマックスを設計!

前半7ビートが「土台」だとすれば、後半の8ビートは「物語の跳躍と結末への加速」。次回は、ミッドポイントからフィナーレ、そしてファイナル・イメージまでを一気に駆け抜ける構成術を掘り下げていきます。

  1. 感情のピークをどこに置くか
  2. クライマックスで何を見せるか
  3. 主人公の変化をどう描くか

これらを後半ビートの流れに沿って解説しながら、読者の心をつかみ、最後まで魅了する脚本構成を作るヒントをお届けします。

サメ映画は「考えるな、感じろ」
" Don’t think. feel. "

save the cat