愛とか恋とかだけでは生きていけない──そんな現代的価値観に真っ向から逆らう、ユニコーンのユニコ。愛し愛されることで世界は平和になるはずだった。生きることを善しとされない聖なる獣の物語。
※大半の部分にネタバレが含まれています。未見の場合はご注意ください
『鉄腕アトム』や『ジャングル大帝』、そして『リボンの騎士』などでお馴染み、漫画の神とも称される手塚治虫がサンリオ発刊の雑誌『リリカ』向けに描いた、児童文学の味が濃い作品。前作に【黒い雲と白い羽】(時系列的には後)、次作に【魔法の島へ】がある。1981年公開。
もちろんサンリオ特有の可愛らしいタッチはこの頃から健在で、ディズニー映画などと同じ24/sで生き生きと描かれるユニコたちキャラクターの細やかな動きは見ているだけで癒される。それだけに『欲と愛』というテーマが一層引き立つ。
現代でも【仮面ライダーアマゾンズ】や【ダークナイト】などで度々描かれる「生きることが罪」と社会や世界から突き放される様を、可愛らしいキャラクターで描くのだ。ヒーローであれば試練や見せ場にもなろうが、ユニコがしょんぼりしているのは見ているだけで心が痛くなる。
それだけに、最初は欲しかなかった主要登場人物が欲を捨て、ユニコへの愛だけを求めるようになる変化には、多大なカタルシスが感じられることだろう。
周囲を幸せにする力を持つユニコーンの子供・ユニコが、その特性ゆえに『我々の領分を侵している』と世界の果てに追放されてしまう。草も生えない過酷な土地へ運ばれても、どんなに冷たく拒絶されても、友達から引きはがされても、けっして愛する心を忘れない、勇気と友情の物語。
媒体によって白・青・緑の体毛に、ピンクの髪(たてがみ?)を持つ、ユニコーンの子供。もちろん白い角が生えていて、なぜか着脱可能。心やさしく、よほどのことがない限り怒らない。
昨今の創作でユニコーンは善い存在として書かれがちだが、本来は獰猛とされ『悪魔、もしくは憤怒の象徴』として書かれることも。そんな中、ユニコは本作で善性の塊として描かれており、後世に一定の影響は与えたものと思われる。
もう一つの『処女を好む』特性は原作および前作の短編映画【黒い雲と白い羽】のほぼ全ての章に少女が登場するものの、手塚治虫作品のほとんどに当てはまる傾向でもあるため、踏襲されているかは不明。ただ、男の子やおばあさん、小動物にも肯定的に接しているので、あまり関係ないだろう。
神々の理不尽な命令によって、時を超えてユニコを遠くに運ぶキャラ。『忘却の丘の果てにユニコを捨ててこい』という命令にはユニコを憐れんで従わなかったものの、代替の地に『生き物はおろか、草もはえない地の果ての国』を選ぶ謎のセンスを持っている。
本作でユニコが最初に運ばれる地の果ての国の住人。孤独の悪魔2世。西風に住民としてカウントされていない。父親がいたとのことだが、そうなると(単為生殖や無性生殖でない場合)母親もいたはずで、父との思い出もあるようなので、真の孤独とは言い難い存在。水木しげるの【悪魔くん】とは無関係。
人間に捨てられ、バスケットに乗って川を下る猫の女の子。逆さ結びのリボンがキュート。どこからの情報か魔女に憧れており、魔女になりたがっている。どちらかというと使い魔向き──だが思い込みの激しい性格で用事をこなしてくれるのか不安なので、平穏に過ごしてもらいたい。
たぶん普通のおばあさん。たぶん普通だが、もしかすると魔法使いかもしれない。一人暮らし。神族しか知らないようなユニコーン情報をなぜか知っているのでちょっと怪しい。やはり魔女なのかもしれない。
男爵はおそらく自称。吸血鬼のような見た目だが、特に血を吸う描写はない冷血鬼。なぜ爵位の中でも最低の男爵を名乗っているのかは謎。
西風が中途半端に神の命令を破ったために遣わされたユニコ追放刑吏2号。追いつかれなかったため、もし捕まっていたら何が起こっていたのかは不明。
ある日ある時──から始まる物語。美しいユニコーンの母から赤ちゃんが生まれる。その中の一匹、本作の主人公『ユニコ』は白い角を持っていた──とはいうものの、きょうだいにも角があり、同じく母親にもあるので、そこまで特別感はない。
それよりも特別なのは、ユニコの『周囲を幸せにする力』。オープニングソングではユニコの無邪気に駆け回る姿と、争いがなくなる様子が描かれ、悲しみも怒りもない楽園のような風景が。
「こうして、人々は誰もが幸せに暮らせるようになったのです」
めでたしめでたし──とはさせてくれないのが、あろうことか人々を幸せにする側の神々。「ユニコがいたら人々はあまりに簡単に幸せになってしまう」「幸せとは苦労と努力の果てに手に入れるもの」「これでは神がいらなくなってしまう」「営業妨害だ!」……と大人げないにもほどがある難癖をつけ、ユニコを誰の目にも触れない、忘却の丘の果てへの追放を西風に命じる。どうやらこの神々は人々には争ってもらいたいし、自分たちも仕事をしなければ気が済まない体質のよう。物語には諸悪の根源となる舞台装置が数多く登場するものの、ここまでしょうもない理由で主人公を苦しめる存在はなかなかいない。
理由はともかく、何千年も時間の流れを下って『忘却の丘の果て』へと島流しされることになってしまうユニコ。ちなみに忘却の丘の果てはどんな場所か明かされていない──しかし、命令に背いた西風が選んだ『生き物はおろか、草もはえない地の果ての国』よりはマシなような気がする。西風も気を利かせたつもりかもしれないが、もう少し別の候補地はなかったのだろうか。
避難地の候補もさておくとして、ユニコの目覚めは海水で。起き上がった途端に波が打ち寄せずぶ濡れになってしまう。周りは本当に草もはえていない剥き出しの岩場──「きゃあっ」という可愛らしい悲鳴が逆に観る者の心を締め付けてくる。開幕からハードにもほどがある。実写の煙を合成したと思われる激しい波にユニコが一言。
「よ、よせよぅ」
怒るのではなく嗜める──ユニコの穏やかな気性がよく表れている。「ここはどこ? 誰かいませんかー?」という問いかけにももちろん誰も応えない。しまいには「ぼく寂しいよう。つまんないよう!」と泣き崩れてしまう。時を止められ攫われてきたので、ユニコはずっと困惑しっぱなし。視聴者も完全なる困惑と憐憫とで、ここに至ってすでに感情移入度はほぼ100%になると断言できる。かわいそうすぎる。
だが全ては性格の悪い神々のせいである。
事情も分からず連れてこられてた地でしかし、ユニコは石造りのおどろおどろしい古城を見つける。一般人(馬?)なら心が折れてしまいようなシチュエーションで「やったー! うちがある!」と笑顔で駆けていくユニコ。でも本当は入り口のこわもて石像に驚いて逃げ隠れてしまうほど臆病な子供なのだ。必死に勇気を振り絞って、空元気を出していただけ──なんて健気なユニコ!
どれもこれも神々のせいである。外道とは彼らのことをいうのだろう。
それでもめげないユニコは古城に足を踏み入れる。そこで再び恐ろしい石像に驚き隠れ、「何者だ」と問われ──、
「生きてる、やった! 僕、ユニコ」
石像との出会いに喜び、しかも礼儀ただしくご挨拶までしてしまう。こんな健気な子を酷い目にあわせているのは神々(略)。「悪魔だぞ。失せろ」といわれても一瞬たりともひるまず笑顔でユニコは接する。さらに「どうして?」とまで問いかける。
「俺様は孤独という名の悪魔だからだ」
「孤独ってなにさ」
「一人ぼっちということだ」
「じゃあ僕と一緒だ! 仲良くしよー」
ここで喜んで悪魔の足に飛びつくユニコ。今まで敵意とか悪意といったものに一度も晒されてこなかったことが窺える。もちろん怒り狂う悪魔。やたらめったらに雷を打ち付け、ユニコの隠れた柱を破壊、倒れてきた柱が自分(?)に当たり、石像が壊れてしまう。
「おじさんが壊れちゃった! おじさーん!」
今しがた攻撃されたことも忘れて心配そうに駆け寄るユニコ。壊れた石像の下から、謎の生物の青い子供が現れる。ユニコを見るなり隠れてしまい、お前が父ちゃんの石像を壊したんだと早速濡れ衣を着せる。それでも「ごめんね」と謝りつつ、飛び出している悪魔の尻尾を見つけて引っ張るユニコ。恐らくユニコ以上に他人と会ったことのない悪魔は再び逃げ隠れてしまう。
仲良くなろうとするユニコに対して、悪魔は「そんな言葉は知らない」と懐疑的。ユニコは「仲良しになったら僕なんでもしてあげる」と唐突に即物的なことを言い出す。もちろん悪魔は大喜び。このユニコーンの子、人心掌握が上手すぎる。悪魔の要求はユニコの『角』。まさか角を要求されると思っていなかったユニコは困ってしまう。当然悪魔は激怒──さっきの言葉は嘘だったんだなとユニコを追い払ってしまう。
ユニコがいなくなったところで「オイラは孤独の悪魔なんだ。一人でいるのが大好き。得体のしれない奴とは話さない──あ、もう口きいちゃったか」と一人ごちる。次の瞬間には「でもアイツ何やってるだ?」とユニコを気にする素振りを見せる。顔を出した途端にユニコが反応、「悪魔くん、遊びに来てくれたんだろう?」と自分の家でもないのに不思議なことを言い出す。
だがまんざらでもない悪魔くん。角をくれたら──とやはり諦めきれない様子。突っぱねられるも、孤独ではないことを知ってしまった悪魔くんはずっとモヤモヤ。退屈そうに一人遊びしているが、ユニコが気になってしまう。寂しくなんてない、ユニコさえここに来なければ最初から一人ぼっちと割り切って気楽だったのに、と可愛いところもある悪魔くん。ついに「アイツのせいでめちゃめちゃに寂しい気持ちになっちゃったんだよな!」と心中を吐露。ユニコが見えた途端に喜び勇んで飛び出していく──表面上は「何しに来たんだ、もう来るなって言っただろ」と取り繕いつつも。この時代のナチュラルツンデレ、恐るべし。もう視聴者は悪魔くんを嫌な奴だとは思えなくなっているはずだ。
そんな悪魔くんへ、ユニコは角の貸与を申し出る。どうしても君と仲良くしたいんだ──自身の持ち物で一番大切な角さえ差し出してででも! それほどまでに孤独が耐えられないのだ! こんないたいけな子供に誰が──神々である。最低すぎる。
一日経ったたら返してね、とユニコが提案するも、悪魔くんは「一日だけ? ケチ」と機嫌を悪くしてしまう。じゃあ友達になってくれないんだね、と落ち込むユニコ。本心では角なんて仲良くする理由づけの一つでしかなかった悪魔くんは、ついに「友達なんて、なってやらあ!」と心を開く。『孤独の悪魔』というアイデンティティーを失ってさえ、ユニコと仲良くしてくれるのだ。ユニコも角という犠牲を払っているが、悪魔くんも相応の対価をこの時点で払っている。それほどまでにユニコの【愛】は深いのである。
余談だが、この映画のキャッチコピーは「ユニコから愛をとらないでください」である。この愛を見て、どうして愛を奪おうと思えるだろうか! そんなことをするのは、文字通り人でなしの神々くらいのものである。
本当に角を借りた悪魔くんは大喜び。文字通り飛び上がって喜ぶ。今まで他人と仲良くしたことがなかったからかハメを外してしまう悪魔くん。角を乱暴に扱ったりユニコを追い回したりと、ユニコの「お話したり、かくれんぼしたり」という要望を突っぱね、しまいには海に落ちてしまう。見てないで助けて、といわれても「悪魔はそんなことしちゃいけない」と悪魔くんは知らんぷり。角がないと力が出ない、とユニコはどんどん流されてしまう。でも悪魔の性分上、名分もなしに助けることはできない。そこで、本当はユニコのことを助けたい悪魔くんは考える。
そうだ、1日経ったら角を返す約束→約束は守れと教わった→1日を数える砂時計を壊せば1日経ったことになる!
ユニコに借りた角で砂時計を壊す悪魔くん。しかしいざとなると海が苦手で飛び込めない。しかしそこは友達、そして約束は守らなくてはいけない! 意を決してユニコを助けにいく。あくまで返すときは「時間が来たから返す」。そこで力尽きて溺れてしまう。
「オイラ塩水には弱いんだ」
「じゃあ、君は自分が危ないのを知っているのに助けに来てくれたの?」
「誰が助けるもんか。約束を守っただけよ。さよなら。地獄で会おうぜ──」
潔すぎる。
「ありがとう、悪魔くん──」
愛を与えられたユニコは大きな一匹のユニコーンへと変身し、おぼれた悪魔くんを海から助け出す。どうなっているんだ、と髪をかき上げ、小さな眼を瞬かせる悪魔くん。
「僕はね、誰かが僕を愛してくれれば、その人を助ける力が出せるのさ。君は僕を愛してくれたんだ」
もちろん悪魔くんは必死に否定する。だがユニコは強い瞳で「君は嘘を言っている。君は僕が好きだし、僕も君が好きなんだ」と告げる。なおも愛してなんかいない、という悪魔くんに対してユニコは「これがその証拠だよ」と、自分と同じ角を悪魔くんの頭に生えさせる。あれだけ欲しいと駄々をこねても与えられなかった、あの角が! 今度こそ本当に手に入った角に、悪魔くんは大喜び。そんな彼を見て、ユニコも嬉しそうに微笑む。やはり素直にお礼は言えない──と思いきや、
「あんがとよっ」
一言だが、ついに感謝の言葉を述べる。悪魔くんが踊るように島を駆け回ると、それまで草も生えなかった島中に緑が茂る。これが悪魔の心をも溶かす愛の力──それを善しとしないのが、性悪な神々。悪魔しか住んでいないはずの地の果てに幸せが生まれた、ユニコの仕業だ、と慌てふためく。そして自身らもおののく『夜風』を招集。生き物の何一つない無の世界へ、と血も涙もない命令を下す。どこまでユニコを恨んでいるのか、こんな神なら必要ない、と好き放題神を嫌うことができる。もしかするとこの神々はユニコの愛に対するアンチテーゼ的な役割を持っているのかもしれない。
島では悪魔くんのユニコを呼ぶ声が。しかし時を同じくして西風も「神々に気付かれてしまった、早く逃げないと」とユニコを連れて行こうとする。ここにきて、初めてユニコは「嫌だ。僕ここにいたいよ。どこにも行きたくないよ!」と明確に意見を否定する。それでも有無を言わさず連れて行かれてしまうユニコ。地上ではユニコを探す悪魔くんが。やっと素直になれたのに──無邪気にユニコを探し続ける悪魔くんへ、せめてユニコは空から別れを告げる。
「せっかく仲良くなれたっていうのに、ユニコを連れて行っちゃうお前は本当の悪魔か!」
自身が悪魔ということも忘れて西風を非難する悪魔くん。本当に悪いのは神々だと教えてあげたい。
「ユニコー! オイラ絶対に見つけ出してやるからな! 何が何でも追いかけていって、絶対友達になってやるからな!!」
悲痛な叫びにユニコは寂しそうに、悪魔くん……と想うのみ。神も恐れる夜風が迫っているので仕方がない……。ユニコの旅はまだまだ続く。
次に連れてこられたのは色彩豊かで、のどかさ全開の場所。もう誰かを幸せにしないなど不可能に感じてしまう。西風のチョイス、いかがなものか(二回目)。また一人ぼっち、僕どうしたらいいの……と途方に暮れるユニコ。そこに陽気な音楽が。
〽アタシ黒にゃこ(猫)、手足は白よ
どうやら発生源は川に流れるバスケットのようで、中には黒猫のチャオが入っている。それを見ている内に橋から落ちて、ユニコが同乗してしまう。絶対に好かれていると思っていたのに捨てられてしまった、とユニコと抱き合う。一通り愚痴をこぼしたところで、アタシ魔女の手下にでもなっちゃおうかしら、と唐突に言い出すチャオ。話している間にも手下から魔女自体になると夢が飛躍する。相当に絵本で読んだ魔女に憧れを抱いているらしい。
話は変わるが、チャオの理想を歌う背景の中に、かのキティちゃんが登場する。やがて怪しげな雰囲気の森へ流れ着くバスケット。こういう場所には絶対魔女がいるんだから、というチャオに、さすがのユニコも少し呆れ顔。そしてフクロウの声に驚いてユニコに抱き着き笑われるチャオ。なぜかこのユニコーン、チャオに対しては辛辣である。そうこうしているうちに一軒の小屋を見つける二人。きっとここは魔女の住処で、箒に乗って遠くに出かけているんだとチャオは言い張る。それに対してユニコは、
「ちょっと絵本の見すぎじゃないかな」
とやはり辛辣。ゴキブリを取ってきて「アタシの好物なの。食べない?」と誘うチャオに、困り顔のユニコ。チャオが好かれていたかはともかくとして、そういうところだぞ、と言いたくなる。ユニコに窘められてチャオはゴキブリを食べるのをやめるが、おなかがペコペコと泣き言をいう。そこにやってきたのが、お婆さん(恐らく普通の)。
こんなところに住むお婆さんは絶対に魔女だときかないチャオを置いていくわけにもいかず、ユニコはしばらくその家に居つくことに。魔女かどうかはさておくとして、どうしてこんな怪しげな森に一人で住んでいるのかは謎。特に家族の描写はないため、怪しいといえば怪しいが……。
ユニコとチャオはお婆さんを手伝いながら、穏やかな暮らしを手に入れる。しかしそれだけでは満足できないチャオ。いつ人間にしてもらえるのかしら、早く早く、とお婆さんに頼む──ものの、言葉は通じないし、きっと魔女ではない。さすがに疑い始めたチャオは、いつになく落ち込んでしまう。かわいそうに思ったのか、ユニコは力を使ってチャオを本物の女の子に。メタな見方をすると、人間になりたいがためとはいえ、猫なりにお婆さんのお手伝いをするチャオを認めたということになる。
が、夢のような時間は長くは続かない。美しい娘となったチャオは、お婆さんなんてもう用済みとばかり、まったく手伝わなくなってしまう。たしなめるユニコの言葉も聞かず、ひがな遊んでばかり。おまけに病気のお婆さんに対して、魔法使いなんだからアタシが放っておいても治るの、と言い放ってしまう。さすがのユニコも聞き捨てならなかったか、自身の力のことを告げる。
「魔法を使ったのは僕なんだ」
「本当にあなたの魔法なら、元の姿に戻してごらんなさいよ。できるはずないんだから」
返事を聞かずに──というよりも、その言葉に悲しくなってしまったユニコの魔法が解けてしまう。元に戻してとすがるチャオ。しかしユニコはもうチャオを人間の女の子にすることができない
「チャオのせいなんだよ。僕、相手を好きになった時しか力を出せないんだ」
「じゃあ、アタシのこと嫌いになったってことなのね……」
嫌いとは言いたくないのか、ユニコは言葉を返さない。他をあたって本物の魔女を探すチャオの後ろ姿が寂しい。一方、お婆さんもチャオ(人間)がいなくなって落ち込んでしまう。アタシ諦めがいいほうなの──という言葉の通り、チャオ(猫)は姿を消す。寂しそうなお婆さん。言葉とは裏腹に、チャオは気になって仕方がない様子で、再び「アタシ手伝ってあげたくなっちゃった」と自主的にお手伝いを再開する。
もちろん猫なので上手くはいかない。けれど、そこにはやはり【愛】が芽生えていたのだろう。洗濯物の最中に川に落ちてしまったお婆さんを助けようと、チャオは自ら川へ飛び込む。ユニコはそれまで映り込んでいなかったが、しっかり見守っていた──空中で再び女の子へと姿を変えるチャオ。必死でお婆さんを助けた後に、その事実にやっと気付く。
「チャオ、やっぱり君はステキな女の子だったね」
一度失敗したくらいでは簡単には見捨てない、ユニコの愛は深いのである。それからというもの、チャオはすっかり良い子になり、お婆さんの手伝いをしながら、ユニコと3人で暮らしていた。結構な幸せ濃度に思えるが、神々からの干渉は特にない。そんなある日のこと、いつものように洗濯をしているチャオの対岸に、不気味な男が姿を見せる。
端麗かつ厳しい顔つきで肌が青白い──一目で普通の男ではないと分かる風貌。「良い声だ。名は?」「私を誰か知らんのか?」「礼儀を知らんが物怖じしない」これらは別に偉ぶっているわけではなく、付近の森一帯の領主・ゴースト男爵ゆえの言動だろう。そんな名前の領主に管理されたくないし、そこに住んでいるお婆さんは一体なんなのか。
ゴースト男爵は気が向いたら私の屋敷に来て歌でも聞かせてくれと誘い、明日、陽が沈んだらパーティーを開いてやろう、と──どうやら強制参加イベントらしい。「お前一人で来い、このことは他の誰にも言ってはいけない」と犯罪者あるあるの、まるで子供向け注意喚起のような──いや、子供向け映画だった。怪しさ満点のままゴースト男爵は去っていく。
翌日、すっかりイケメンのゴースト男爵に酔いしれたチャオは、森の様子がおかしいから出歩かないほうがいいというユニコの忠告も聞かずに、こっそり抜け出してしまう。その原因となった木の実を見つけ、チャオも軽率に食べてしまう。ゴースト男爵の瘴気か何かが入っているのか、森に導かれるように進んでしまうチャオ。
ただでさえ危なっかしいチャオが酔っ払い、薬を盛られても全く気付けない。完全に酔いつぶれて、醜態にしか見えない姿をさらしてもゴースト男爵は「フフフ……面白い娘だ」と含み笑い。超寛大である。もう手中とばかりに油断したゴースト男爵の隙をつき、ユニコはチャオを連れて館を離れる。しかし森はゴースト男爵のテリトリー。すぐに追いつかれてしまう。応戦するユニコ。剣と角なのになかなか良い勝負の末、剣を折られたゴースト男爵は怪光線を放ってユニコを気絶させる。落ち際、ユニコは「悪魔くん、西風さん……」と数少ない知り合いの名を呼ぶ──。
ユニコの危機を察知し、迎えに行く西風を、目ざとく発見する悪魔くん。海際の崖に立ち、ずっとユニコのことを考えていたのだろうか。もう行かねばという西風に「たった一人の友達なんだ!」と頼み込み、ユニコ救出へと向かう。
特に興味もないのか、準備のためか、幸いにもゴースト男爵はユニコを放っておいていた。友達との再会に喜ぶのもつかの間、チャオがいないことに気が付くユニコ。悪魔くんと二人で再びゴースト男爵の根城へと向かう。邸では屋根にチャオが磔にされていた。そしてゴースト男爵を見て悪魔くんが発する、
「あれは、やっぱり○○だ」
わざとなのか、しっかりと聞き取れない正体。おそらく同族と思われるが、何度聞いても「芳忠だ」にしか聞こえない。だが大塚芳忠ではなく井上真樹夫である。待ち構えていたわりに、有無を言わさぬユニコの突進に、肩に一太刀浴びるゴースト男爵。屋根の棘に突き刺さってしまい、あまりの突拍子もないやられ方にユニコも呆然とそれを見ている。
しかしそれは仮の姿。屋敷を突き破って巨大な魔物が現れる。割れる大地、噴き出す溶岩。悪魔くんがいうには、父ちゃんよりもすごいらしい。逃げる三人(匹?)に森自体が襲いかかる。このままではまずいと、ユニコは単身立ち向かう。悪魔くんの助太刀もむなしく、圧倒的質量差のゴースト男爵の斧で、ユニコの角が砕かれてしまう。完全に力を失って、地に落ちてしまうユニコ。
「アタシ、人間の女の子にならなくていい。だから目を開けて」
「おいら、角なんかいらないよ。な。返すから。目を開けてくれよ」
二人の涙と角──ひいては【愛】がユニコを甦らせる!
「ありがとう二人とも。僕がユニコーンになれるのは、誰かに心から愛された時だけ」
立ち上がったユニコは母親もかくやという美しさの大きな成獣となり、その角でゴースト男爵を一突きに。たまらずゴースト男爵は地面の割れ目に飲み込まれていく。余談だが、有翼のユニコーンはペガサスとの混成語で『ユニサス』『ペガコーン』などと呼ばれる。
かくして森は救われた。チャオはお婆さんのところへ戻り、安心を確認して涙を流す。もう魔女かどうかなんて関係ないのである。ところでユニコは──悪魔くんが探し回るも、もうその姿はどこにもない。
西風に抱かれているユニコは駄々をこねず「チャオ、お婆さんと幸せにね」と自分を顧みず、他人の幸せを祈る。助けてくれたことをお婆さんに自慢げに話すチャオに、お婆さんがユニコーンの伝説を告げる。
「ユニコーンは幸せにした人のそばにはいられないそうな──」
お婆さんに止められてなお、チャオと悪魔くんはユニコを呼び続ける。悪魔くんは西風に連れ去られるユニコを見つけ、おいらも連れて行けと懸命に叫ぶ。その頭には、またユニコとおそろいの角が。
「角なんていらないって言っただろ! 絶対探し出して見せるからな! たった一人の友達なんだから!!」
「さよなら、悪魔くん。さよなら、チャオ……」
別れを言うこともできない切ない旅──神々はいつか罰を受けるべきである。愛を与えることに喜びを覚えるユニコ。だが与えられたほうは、心にユニコの形の穴がぽっかりとあいてしまう、罪作りな生き物なのだった。
原作/監修 | 手塚治虫 |
制作 | サンリオ(辻信太郎) |
脚本 | 辻真先 |
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